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CTO倉持対談 Tech Crawling #3〜自社と顧客から学んだ、危機感が変化を成し遂げる絶対条件~
クラウドファーストな時代に入り、OSS(オープンソースソフトウェア)で開発者に支持されている技術を積極的にリサーチ、日本に紹介しているクリエーションライン株式会社(以下、クリエーションライン)。小規模な組織ではあるものの、日本を代表するハイスキルなエンジニアを擁し「ブティック型ソリューションカンパニー」と呼ばれる同社は、日本におけるシステム開発の在り方として、技術面だけでなく組織論や意識変革、人材育成についても課題を提示しています。
「CTO倉持のTech Crawling」の連載3回目の対談では、クリエーションラインの安田社長にご登場いただき、同社のこれまでの歩みと、これからのシステム開発への展望を語り合います。
安田 忠弘 プロフィール
クリエーションライン株式会社 代表取締役社長
2006年にクリエーションラインを設立。
「IT技術によるイノベーションにより顧客と共に社会の進化を実現すること」をミッションとして、クラウド、OSS、アジャイル、DevOpsなどについて多くの経験および知識を有する技術者140名を率いる。
暗黒時代あってこその今
倉持 安田さん、お久しぶりです。
最近も精力的に各所で講演活動などを行っていらっしゃいますね。
安田 おかげさまで、システム開発系のイベントで、当社の取り組みをお話する機会をいただいています。
以前は技術動向などのお話が中心でしたが、アジャイル開発やクラウドネイティブへの関心が徐々に高まっているのか、実効的な開発組織や関係者の意識改革などのテーマが増えてきましたね。
倉持 アジャイル開発に取り組んでいくと、チームや組織の在り方を考えさせられるので、外せないテーマですよね。ぜひこの辺を今回の対談で伺いたいと思っていました。
安田さんと知り合ったのは、2019年1月に開催されたRegional Scrum Gathering Tokyo(以下、RSGT) 2019のパーティーで、たまたま隣の席に座ったのがきっかけです。
安田 そうでしたね。あの時、倉持さんとITの話で意気投合しました。
倉持 会社に戻ってから同僚に安田さんとお会いしたことを伝えたのですが、そのときの反応を鮮明に覚えています。実はその時点では私は御社のことをよく知らなくて、「クリエーションラインという会社の安田社長とお会いしたけど、いい人だったよ」と言ったら、「何言ってるんですか!今や有名人ですよ!」と驚いていました。あの節は大変失礼しました。
安田 コンテナの活用やアジャイル開発など、ここ数年で浸透が始まったばかりだと感じていますし、我々の会社を知っていただく努力がまだまだ必要です(笑)。
しかしその少し前、2013年頃は当社の暗黒時代でしたから、良い時にお会いできたと思ってます(笑)。
倉持 暗黒時代(笑)。そこに興味があります。あ、先日RSGT 2020※1で講演されたときに、そのお話が出てましたね。「会社の文化」をグラフにしたところ、2013年頃にぐっと下がって、その後持ち直したというお話をされていました。
※1 Regional Scrum Gathering Tokyo 2020
安田 はい、講演では、『ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント』(翔泳社、2016年)※2で学んだことの大きさを伝えようと、コントラストとして暗黒時代を取り上げたのですけど(笑)。
2006年にクリエーションラインを創業した当時は、システム開発でお客様に貢献しようと思って、やみくもに頑張っていましたね。主に受託型のシステム開発案件が多く、日々全力で走っていました。私は経営者ですから、リスクもあるし必死で頑張るのは当たり前でしたが、当時30人ほどのチームはみな疲弊していたのでしょう。2013年に大きなシステムトラブルに見舞われて、社員の不満が一気に噴き出しました。
※2 ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント(リチャード・シェリダン 原田騎郎 安井力 吉羽龍太郎 永瀬美穂 川口恭伸)|翔泳社の本
倉持 ・・・なるほど。
安田 その時私は、会社を維持するために仕事をしていて、目標やビジョンを持っていなかったことに気が付いたのです。それまで多くの経営指南書やセミナーに触れると、やれビジョンだ、やれ意識改革だ、と言われていましたが、正直よくわかりませんでした。
しかし、私が社員に訴える言葉に社員が反応しない、社員が意見を発しない、コミュニケーションレス、何より雰囲気が暗い状況に陥ったときに、本当に危機感を感じました。
そこで初めて、我々は何のために働いているのか、という命題を探し始めて、「ITによるイノベーションにより顧客と共に社会の進化を実現すること」に行き着きました。つまり、ビジョンです。
我々のような小規模なシステム開発者集団が、大手のSI企業と同じ土俵で仕事をしても、我々だけの価値は得られないですよね。だから、誰も始めていない、見えていない、イノベーションの最先端を顧客に届けようと思いました。
倉持 まさに危機感が会社の向かう方向を決めるきっかけであったわけですね。社内が疑心暗鬼になると、いつの間にか社員間の対立とか溝ができ始めるものですよね。対立軸は会社と市場であるべきなのに、なぜか社内に向けられてしまう事例はたくさん見てきました。
安田さんが最近訴えている、意識改革や組織の在り方、という言葉がなぜ出てきたのか、腑に落ちました(笑)。
ところで、2013年の段階では、今のクリエーションラインさんの得意分野である最先端な技術についてはほとんど市場が無かったと思いますが、どのように事業体の変化を進めたのですか?
安田 従来からの受託型のシステム開発の割合を、徐々に下げる努力をしました。ただ、我々がそうしたくてサッと実現できるものではありませんので、順を追って進めました。実は、2008年にAWS(EC2)を初めて知り、その後EC2相当の機能をOSSとして持つEucalyptusと出会い、それに取り組み始めます。そこからOSSやクラウドにフォーカスして事業を拡張していきました。
当社の財産は社員です。社員には、技術に対する知的好奇心を持ち続けてほしいと思っていますので、とにかく教育の機会を設けたいと思っています。しかし、最先端を追い求めるということは、我々の前に道は無いわけです。そこで当社CTOの荒井を中心に尖ったエンジニアが率先して新技術を学び、数日かけて社員へトレーニングしたり、レクチャーしたりします。トレーニングやレクチャーを受けた社員は、彼らの取り組みに感銘し真似るようにして自分の関心のあるエリアを深掘りし、同様に社内教育を行います。
そのコンテンツはその後、お客様へのデリバリーにつながり、ビジネスの源泉となります。
そして彼らは、クリエーションラインのGuru(達人・すごい人)であると同時に、日本の最先端のエンジニアとしてコミュニティに対しても貢献し、クリエーションラインのブランドを育成してくれています。
倉持さんの同僚の方が当社をご存じだったのは、我々のエバンジェリストたちのおかげなのです(笑)。
倉持 今をときめくクリエ―ションラインさんにこのような背景があったとは驚きです!
しかし、御社のこの経過は、実はラックととても似ていると思い、シンパシーを感じました。我々もシステムインテグレーションを母体に事業展開をしてきましたが、1995年からサイバー攻撃対策の事業を開始しました。その当時はセキュリティ事業なんて誰も関心がなく、当社も事業赤字を出しながらノウハウを蓄積し、日本で初めて診断、監視、緊急対応などのサービスを編み出し、多くのタレントを世に送り出し、今のブランドを確立することができました。まさにクリエーションラインさんと同じ取り組みなのですね。
安田 ラックさんもそういう流れがあったのですね。
以前と今でいうと、おかげさまで当社に入社を希望される方が段違いに増えました。この人材難の時代に、本当にありがたいことです。そして、暗黒時代のお話を社内でプレゼンした時に、最近入社してくれた社員は驚いていました。社員には、そういう経験があったから今があることをしっかり話しているつもりです。
愛される環境「Joy,INC.」、実現には喜びを足すだけ
倉持 話は変わりますが、RSGT 2020では、話題のビジネス本『ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント』について熱く語っていらっしゃいましたね。読後、感動のあまり、著者であるリチャード・シェリダンさんの会社「Menlo Innovations,Inc.」へ行き、同社を見学されたとのことでしたが、いかがでしたか?
安田 いやー、セミナーでもお話しましたが、私が理想とする会社がそこにありました。本で読んだり講演で聞いたりしたことが、実際に行われていたのです。本にあった「メンローベイビー」※3も実際にいました。そして、ちょっと買い物に行ってきたお母さんがエンジニアであるお父さんから託されて子供を連れて帰宅していくといった素晴らしい日常がそこにありました。
※3 メンローベイビー:同社の社員が子供の「初めての場」に立ち会えるよう、子供と一緒に仕事ができる制度
倉持 『ジョイ・インク』では、働くことの価値観について、今の時代に逆行しているようなことも説明されていましたね。テレワークより物理的なオフィスに出社することを推奨しているとか。メンローベイビーも、家庭と会社をシームレスにするために考え出されたと思うと仕事って何だろうっていうシンプルな疑問に行き着きますね。
安田 そうですよね。社員が愛する職場には喜びがあふれている。だから人生も素晴らしいものになると。
ただ、あまりに自由なので、セキュリティ的にどうなのかなって思う節もあり、聞いてみたところ、お客様には会社の考え方を伝えて、ご理解いただけたところとだけビジネスをしているということでした。自分たちの理想とする姿を徹底していますよね。根底に流れる考え方について、大変共感しました。
倉持 そこまで徹底するのは並大抵の覚悟では難しいと思いますが、安田さんがクリエーションラインの事業を一般的な受託開発から脱皮させる決断と、少し共通したものを感じますね。
表現が的確かはわかりませんが、何かを得るためには取捨選択も必要なのかな、と感じました。
我々のビジネスは、お客様と協力してシステムを開発することにありますが、その後の保守や改修などを介して長いお付き合いになります。アジャイル開発となると、さらに深いお付き合いが必要となるケースもありますよね。だからこそ会社の方向性を見失わないよう、お客様との関わり方を慎重に見極める必要があるのかもしれませんね。
安田 確かに、以前と今とでは、お客様との立ち位置に変化がありました。
私たちにお声がけをいただくお客様、特に製造業や金融業の方々の危機感は凄いです。彼らの事業の周囲ではイノベーションが起こり常に事業基盤が変化・影響を受けています。その中で、大きな流れとして事業会社が事業に関連するシステムを内製化しようという動きになっています。クリエーションラインは、こういった危機感を持ち変化しようとするお客様に対して、アジャイル開発により時代の変化に即応できる開発体制を、定着するお手伝いをしています。
また、こういったお客様が開発効率を飛躍的に高めるためのツールとして、GitLab、Docker(現Mirantis)、Aqua Security、MongoDBなどを活用するための支援を行っています。その結果、日本国内において独占的にサポートを提供するまでになりました。
ビジネスの始まりと、これからのクリエーションライン
倉持 安田さんの目指すクリエーションラインという会社の理想が見えてきました。
今やシステム開発環境の多くはOSSで開発・ブラッシュアップされ、企業向け機能を追加して有償製品ができ上がるという流れが多いですよね。いわばOSSはITの最先端という言い方もできると思います。先に挙がった、クリエーションラインさんが強みとしている多くのツール群について、どのようにプロダクトを選定し、事業に組み込むのですか?
安田 実は、OSSかどうかは、あまり意識していないのです。お客様にとって価値がある技術なのか?クリエーションラインとして付加価値を付けられるか?と考えたときに、OSSを活用する機会が増えただけなのです。
ただ、私(会社)としてはよい製品だと思ったとしても、技術的にサポートするエンジニアが興味を持たなければ、うまくいかないのはよくわかっています(笑)。ですので、当社のメンバーからの「これ面白いからやりたい」という提案が発端となり、その中からお客様のニーズに合致し、品質も良く、今後市場に受け入れられそうな製品を、会社として「やる」「やらない」という判断をしています。
倉持 なるほど。エンジニアの感性をビジネスのきっかけにされているわけですね。
さて、システム開発におけるアジャイル開発手法の採用はこれからますます増えると思いますが、クリエーションラインさんはこれからどのような変化を遂げようと思っているのでしょうか?
安田 もともと、受託型のシステム開発を進めてきましたが、従来からのウォーターフォール型のシステム開発手法に問題があるとか、劣っているとは思っていないです。ウォーターフォール型のシステム開発手法は、お客様の要件が明確で環境も安定しているなら、上流からしっかり計画して確実に開発を進められるという点で適した開発手法です。
しかし、世の中の変化の波にさらされ、お客様やサプライチェーンの要望が変化する現状において、継続的に要請に応えるためにはアジャイル開発の方が的確だと思っています。
今は安定した分野の企業でも、破壊的なイノベーションにより急速に状況変化に対応しなければならないケースが出てくることでしょう。クリエーションラインは、当社のビジョンにあるように、必要とされる産業・企業に対して、我々の持つシステム開発のノウハウを供給する、そういったパートナーであろうと思っています。
そのためには、システム開発の潮流を常に把握し、日本で当社だけがお客様に最適な提案ができる、そういう企業を目指したいと思っています。
システムインテグレーションとセキュリティという二枚看板を持つラックさんとは、これからいろいろな面で協力できるとうれしいです。
倉持 こちらこそ、両社の強みを生かして、アジャイル開発の更なる普及とDevSecOpsへの関心を高める取り組みと共に、製品やサービスをお客様に届ける活動につなげたいですね!
本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
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