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こんにちは。ラックCTOの倉持浩明です。
半年後の夏には、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックが開幕します。
オリンピック・パラリンピックはアスリートの挑戦の場ですが、IT業界からこの巨大イベントを見ると、ざっと挙げるだけで以下のようなITインフラを活用した新しいサービスが身近なものとして実現されることが期待できます。
ITインフラを活用した新しいサービス
- 第5世代移動通信システム(5G)
- 超高精細映像機器による映像配信(8K)
- 公共交通、道路における渋滞緩和及び交通情報の提供サービス
- 訪日外国人への外国語対応を円滑にするような翻訳サービス
- 訪日外国人による普及が加速するキャッシュレス決済
日本はこれまでも、先進技術によるインフラサービスを提供してきましたが、2020年にはさらなる変革により、上に挙げた以外にも最先端の「次世代社会インフラ」が実現されるものと期待しています。社会の仕組みも、日本に暮らす我々の生活も大きく変わる可能性のある2020年は、すなわち「デジタルトランスフォーメーション(DX)への本格対応元年」と言ってもいいのではないでしょうか。
自動車業界は「100年に一度の大変革期」と言われ、自動運転の実現に向けて、情報通信事業者を巻き込む形で業界再編がダイナミックに進んでいます。交通・運輸業界ではライドシェアやMaaS※などが、自治体での実証実験などを重ねています。IT業界では「Yahoo! Japan」を運営するヤフーと「LINE」を運営するLINEの経営統合が昨年11月に発表され、米国の巨大IT企業、いわゆる「GAFA」への対抗軸が構築されようとしています。2020年をピークとして日本の経済は成長が鈍化するとも言われていますが、生き残りをかけた変革にいち早く乗り出した企業に続き、あらゆる企業がビジネス環境の変化に対応し、DXによるビジネスモデルやビジネスプロセスの変革に取り組むことが求められています。
※ MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス):
情報通信技術(ICT)を活用して自家用車以外のさまざまな交通手段を組み合わせ、スムーズで効率的な移動を可能にする次世代型の移動サービスのこと。
DXに取り組む企業に求められる経営戦略
外部環境が劇的に変化し予測が困難な状況においては、組織の中央が戦略を立案し、それを現場が着実に実行していく「計画型」の戦略はとてもリスクが高いものです。そのため、環境変化に応じて現場の裁量で進むべき方向性を学習していく「創発型」の戦略を併せ持つことが望ましいと言えます。
創発型戦略
当初想定していなかった事業環境の変化に適応するように戦略を柔軟に見直すことを繰り返し、学習を通じてやがて組織全体の行動に一貫性やパターンが形成されていく戦略です。『システムの科学』(ハーバート・A・サイモン)では、この様子を「アリの行列の軌跡」に例えて解説しています。アリは自分の巣がどこにあるのかは大まかな方向性しか持っておらず、途中にある障害物についてはすべてを事前に把握しているわけではありません。直面する障害(環境の変化)への対応は、中央で全体を統制するアリが存在する訳ではなく、個々のアリが都度対応(学習)することによって、やがてそれが全体へと伝播し、全体として目的を達成しているのです。
このように状況に応じてビジネスを適合させるスピーディーな経営には、クラウドのようにビジネスに集中できる環境と、アジャイル開発のように小さな成果を積み上げていく手段が向いています。つまり、創発型戦略にはクラウドとアジャイル開発の活用は必須なのです。
ただし、システム開発の環境としてクラウドを採用し、開発手法としてアジャイル開発を採用しても、それを運用する企業の組織構造やコミュニケーションプロセス、そして働き方や評価体系が変化しなければ、本当の意味でのDXは成し遂げられません。企業がDXによる成功の果実を得るためには、組織自体がデジタル(あるいはソフトウエア)を中心としたプロセスへと進化することが必要です。
組織構造の変革は経営幹部のリードが重要
ラックではクラウド活用やアジャイル開発手法を用いたシステム開発で顧客企業を支援していますが、依然、開発現場レベルでの取り組みにとどまっている企業が多いのが現状です。クラウドやアジャイル開発手法の採用によりシステム開発手法が変化しても、ビジネスプロセスを含む企業全体が顧客志向を前提として進化しなければ、目的は達成されたとは言えないでしょう。組織自体がデジタルを中心としたプロセスに進化していくためには、組織構造をこれまでの計画型戦略を前提とした上位下達のスタイルから、より現場に権限を委譲するあり方に変えていかなければなりません。こうした組織構造の変化をリードできるのは経営幹部だけです。
エンジニアにも求められる「進化」
企業がデジタル化を進める中では、エンジニアはこれまで以上にビジネスに貢献する意識を持ち行動していく必要があります。DXが企業のビジネスモデルに柔軟さを求めることから、必然的に創発型戦略を志向するようになり、それに親和性の高いアジャイル開発を採用することになります。これは、システム開発者がビジネスの根幹を支えていくことに他なりません。
デジタル(ソフトウエア)が事業の中心になるのであれば、そこで技術者の果たすべき役割はこれまで以上に大きくなるでしょう。エンジニアも「上司や経営層、顧客が技術をわかってくれない」と嘆くだけでなく、相手の理解できる言葉と概念で説明できるようにしなければなりません。私自身も長年ソフトウエア開発に身を置いてきた人間として、ソフトウエアとそれを支えるソフトウエアエンジニアには社会課題を解決し、企業の成長をリードしていく大きな可能性が広がっていると信じています。
ここまで述べたとおり、2020年はDXの本格対応元年になると考えています。成功の鍵を握るのはやはり経営層です。DXによる変革を本気で目指すのであれば、経営層は「ITは情報システム部門の担当」と距離を置くのではなく、自らの課題として取り組まなければならないことを改めて認識したいものです。
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