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急速に注目を集めている生成AI「ChatGPT」を、業務で上手にかつ安全に活用したいと考える組織は多いのではないでしょうか。
ChatGPTをはじめとした生成AIには、顧客対応、マーケティング支援、プロセスの自動化、製品開発、意思決定の支援など、多くの場面で活用できる可能性を秘めています。しかし、実際にどこから手を付けて、どのような取り組みをしていったらよいかが悩みどころです。
ラックの社内では生成AIに対してどのような取り組みをしているのか、AI活用の推進チームである「GAI CoE(Generative AI Center of Excellence)」の事務局メンバーのインタビューとともにご紹介していきます。
ラックでの生成AIへの取り組み
ラックは、すべての社員が生成AIを自らの業務で活用し、高い生産性を発揮して事業に活用することを目的に、組織横断の生成AI利用の支援組織「GAI CoE」を作りました。CTOである倉持をリーダーとして、ラック社内の経営幹部、エンジニア部門、管理部門、営業マーケティング部門などから選ばれた約30人が所属し、以下のような活動をしています。
- 戦略立案:会社としての生成AI対応戦略を立案し推進・支援・監督する
- ラボ機能:生成AIに関する実証環境を準備して社内に提供する
- ガバナンス:生成AIの利用や自社開発におけるガイドやルールの整備
- 人材育成:生成AIに対応し業務改善をリードする人材を社内で広く育成する
- プレゼンス:エバンジェリストの生成と輩出および、社外広報活動
これまでに具体的に実施してきた施策の一例はこちらです。
- 生成AIの利用や自社開発におけるガイド、ルールの整備
- ChatGPT Plus(有償版、月額20ドル)を希望する社員に、利用料金を会社で負担
- 生成AIを社員が安全に利用することができる独自アプリの提供
- ChatGPTをシステム実装する場合のリファレンスモデルの提供
- 生成AIの社内活用推進サポート(勉強会など)
また、社内のプロジェクトとしてラック専用の対話型生成AI「lacgai」を開発しました。働き方や日常業務などについてまとめた社内規定集に関する質問にも回答します。
さらに、ChatGPTを使ったAIアシスタント「ChottoChat(ちょっとチャット)」も開発しました。フリーフォーマットでの会話や、用意されたプロンプト(質問や指示)の利用もできます。こちらも社員専用のツールで、社内SNSであるMicrosoft Teams(以下、Teams)に組み込まれる仕様のため特別な登録が無くても気軽に利用できます。
GAI CoE事務局メンバーに、ホントのところを聞いてみた
続々と推進される生成AIへの取り組みですが、実際はどのように進めていったのか、課題だと感じていることは何かをGAI CoEの中心メンバーに聞いてみました。
今回話を聞いたのは、CTOの倉持、新規事業を担当する高橋、事業変革推進を担当する内田の3人です。
生成AIを事業のど真ん中に据えていく決意
──今回の活動をはじめたきっかけから教えてください。
- 倉持
- 昨年11月、ChatGPTが話題になり始めたころから、個人的に活用しているメンバーはいましたが、きちんと組織化して取り組もうとなったのは今年の3月です。期が変わる4月から、活動をスタートさせることとなりました。大きくドライブしたのは、代表である西本の強力なリーダーシップによります。社内のリソースを集中させて一気に進めるために、各チームのリーダーを集めて組織化するよう指示がありました。
たとえ現場で「とても良いツールだから使おう」という話になっても、個人レベルでは実証実験の段階で止まってしまいがちです。それを避けるためには、技術部門の人間だけではなく、人事や総務、経理財務、研究部門などあらゆる部門の執行役員やキーマンを巻き込む必要があります。
そこで、組織を横断したメンバーによる生成AIの推進チーム、GAI CoEを作りました。これは「生成AIを事業のど真ん中に据えていく」という決意の表れといえます。
──活動の目標はどこに置いたのでしょうか。
- 倉持
- 正直に言うと、最終目的ありきでスタートしたわけではありません。4月に組織化した段階で、ChatGPTを使っていない社員も多くいたので、当初は1日も早く多くの社員にChatGPTの良さを実感してもらいたいと思い、まずは環境整備に努めることにしました。そして触ってもらったうえで、これは自分の仕事に関係ないと感じれば、それでも良いですし、反対にこれはすごいと感じるならば、業務に取り入れていってもらおうと考えました。
- 高橋
- まずは触ってみようということで、月額20ドルの有料版を導入しました。先進的な新機能やより高度な分析ができますが、お金がかかるということで、二の足を踏んでいた社員の背中を押すことになったと思います。300人という人数限定にして、3カ月間支援することにしました。その300人も埋まるかどうか不安でしたが、2、3日でいっぱいになりましたね。
社員の興味も高い時期で、使うきっかけを作ることができて良かったと思います。その後は勉強会などで、実際に使った人からどのような使い方をしたのかを共有していきました。
──その300人を指名するのではなく、自ら手を挙げてもらったのですね。
- 倉持
- そうですね。ラックには2,000人の社員がいて、どこに隠れた逸材がいるかわかりません。公募制にすることで、とんでもない使い方を見出す若手が出てくるかもしれないという期待もありました。実際に公募で手を挙げてくれた人たちは、Teams内で使い方の共有をしてもらっていますが、普段はあまり発言しない人たちも素晴らしいアイデアを出してくれて、狙い通りタレントの発掘にもつながっています。
さらに5月には、TeamsでChatGPTが使えるようなアプリを作り、社員全員が使えるようにしました。これは社内の情報システム部門がコントロールしています。Teamsに作ったものは、いつ誰が使ったか、どんな情報を入力したのかのすべてをログとして記録しています。もちろんログの記録はセキュリティ観点もありますが、業務に適用できるChatGPTの使い方を記録から知りたいという意図もありました。ChatGPTのプロンプトはまさに「秘伝のたれ」なので、良いプロンプトができたら、みんなで共有することを目指しています。
並行して、オリジナルのAI作りも進めてきました。ChatGPTもTeams内のアプリも、ラックの社内規定などは答えてくれないので、オリジナルのAIを作ることで、その課題を解決しようと考えたのです。Microsoft Azure OpenAIを使って、自社に閉じたAIを作り、そこに社内の規程集や各種ガイドライン、社内情報を読み込ませました。これを7月にリリースしています。
- 高橋
- また、社内の風土醸成にも努めました。「まずは、触ってみよう」という勉強会もありましたが、徐々に「業務でも触っている」人が現れてきたので、彼らが「どのように実務に活用しているのか」を共有する勉強会も企画しました。さらに、良いプロンプトを社内の共有資産にしていこうという趣旨で、「ぼくの、わたしの、最強プロンプト」というイベントを企画しました。どのような成果が出たのかを募集し、それをみんなで投票して、良い結果の人には発表してもらいました。
- 内田
- 本当に、多様な発想のプロンプトがありました。例えば、ChatGPTに2つの役割を持たせやり取りさせるといったものなども、とても面白かったですし、非常に勉強になりました。
業務活用への転換の秘訣は、自分だったらと考える人を増やすこと
──活動は順調に進んでいったのですね?
- 高橋
- 最初の3カ月で、使っていた人たちが自分の業務で何ができるかを考えてくれるようになり、6月下旬から「セキュリティ診断やコンサルなどのビジネスでこんな活用ができそうだけど、可能だろうか」という相談をいただき、オリジナルの生成AIの中で、実現できるかどうか検証を進めています。後半の3カ月間は、1つギアを変えていくという意味で、みんなが経験したものから自分の業務にどう活用できるか、実現していくステージへと転換しようと考えていました。
実際には、思っていた以上に社内から声が上がってきました。うちの社員らしいところでもありますが、こちらからノックしてみるとアイデアが出てきたというのが正確な表現ですね。
- 内田
- ノックした後の動きは割と早かったり、期待以上のアウトプットが出てきたりします。過去のイベントでも、その瞬間は多くの意見も出てきますが、その先はあまり続かないことが多くありました。しかし今回は、段階的にChatGPTやTeams連携、社内向け生成AIをリリースしていくことで、「自分だったらどうするか」と考える人が想像以上に増えてきました。
- 高橋
- 私たちは最初のきっかけづくりをする役割にすぎませんが、社員の関心度が高くなり、だんだんとChatGPTについてのニュースを社内で共有してくれる人が出てきました。今では私たちの手を離れて、勝手に動いてくれる状況ができてきたと感じています。倉持が言っていた「隠れた逸材」がいることは分かっていましたが、実際に今回の取り組みで浮き彫りになったと感じました。
他の多くの会社でもそうだと思いますが、今の業務とは関係がなかったので浮き出てこなかっただけで、もしその方が違う部署にいたら高い能力を発揮するのではないかということが見えてきました。それはとても面白いですね。
- 内田
- お客様先に常駐している社員が多くいて、彼らもChatGPTにとても興味を持っています。私が彼らに期待していたのは、「自分たちのビジネスにどう活用するか」「生産性を上げるためにどう活用しようか」というアイデアが出てくることでしたが、大きく予想に反しました。彼らはSIerとしてお客様のシステムや業務に詳しいので、そちらにどう活用しようかというアイデアばかりでした。
決してそれは悪いことではありません。「生成AIを活用したもので、一緒にできるものはないか」とお客様から問われたときに答えられるようにしていくことが、CoEの活動でもあると思っています。また、社員のみんなが興味を持って知識をつけていくことで、お客様の期待に応えられるようになると確信しています。
──これだけスムーズに普及していった要因は、もともと技術的な素地があったということでしょうか。
- 倉持
- ラックの経営陣もマネジメント層も技術者出身が多いので、新しい技術のキャッチアップが早いのでしょう。もともと社内にもAIの開発研究をしているチームがあり、金融機関の不正取引をAIで検知するサービスを提供しています。そこでのAIに関する研究蓄積があったため、自社での生成AIもすぐに立ち上げられたのだと思っています。
また昨年度、生成AIがブームになる前のことですが、これから20年、30年先を考えたときに、AIはゲームチェンジャーになるだろうと考えました。そこで、社員にいち早くAIに関する知識を身に付けさせたいと思い、AIに関する入門的な検定試験であるG検定の取得支援キャンペーンを実施しました。結果的には1年間でおよそ400人が取得できました。
そのキャンペーンで下地ができたので、あとは後押しをするだけ。会社として場を用意するのが重要でした。そしてここから先は、きちんとゴールを示すことが重要だと考えています。我々は、生成AIを使って事業をどうしていきたいのか、ということですね。
生成AI時代に社員が生き残る力を作っていきたい
──本活動の今後について教えてください。
- 高橋
- ChatGPTは、あくまでツールのひとつにすぎません。それを使ってどうしたいのかというゴールを設定し、ギャップを埋めるためのツールとして活用することが重要です。
会社が考えるゴールはあったとしても、一人ひとりが自らのミッションやゴールを持っているはずです。これからはそこに否応なく生成AIが入ってくるはずです。会社で使うならキャリアプランとして、個人で使うなら人生設計に生成AIを組み込みどう向き合うかという時代が来ると考えています。GAI CoEの活動がそれらのゴール設定・目標への駆動の契機となればと思っていますし、それが幹となれば会社としての推進力になります。
そして、いろいろなツールを遊びでも使ってもらいたいと考えています。最初はChatGPTに特化していましたが、生成AIはChatGPT以外にもたくさんあります。業務に使うのもChatGPTだけでなく、例えば画像を作れれば自分のプレゼンテーションがより良いものになりますし、動画を作れればそれをお客様に見せることでより伝わりやすく、営業もしやすくなるかもしれません。これらのツールがあるのに、使わないのはもったいないと思います。とにかく「ツールがあるならば使ってみよう」という機会をどんどん仕掛けていきたいと考えています。
- 内田
- システム開発の現場でいうと、生成AIはツールなので、それをどう開発現場で使っていくことで自分たちの技術力や生産性を上げていくかを考えることが重要です。例えば、提供する開発基盤に生成AIが組み込まれて、私たちが技術者としてそれを活用し、世の中の技術者と対等に戦っていけるという環境を目指してほしいと考えています。
- 倉持
- 普及を進めるためには、自由度とセキュリティのバランスを考慮するのも重要です。CoEのチーム内にはガバナンスチームもあり、法務やリスクマネジメントのメンバーが入っているので、どのようなデータならAIに学習させても良いかはそこで判断しています。私たちはセキュリティ企業として、お客様からガバナンスやルール作りを求められることも多いので、まず自分たちで徹底的に使いこなして「こういうルールだといい感じ」というものを作っていきたいですね。
お客様にもラックが作ったAIのことをお伝えしていますが、「それを売って欲しい」「自分たちも同じようにやりたい」といった相談をいただきます。そういう点でも確実にビジネスに繋がっていると感じています。国によっては規制などがかけられていますが、もはや生成AIが無かった時代には戻れないと思います。なので、この先の生成AI時代に社員が生き残る力を作っていきたいですね。社員のOSをバージョンアップしたいということです。それがある意味ゴールかもしれません。
また、社内の生成AIには会社の歴史、社内のあらゆる部署のことを学習させられます。今後は企業にとって、どれだけ頭のいい自社AIを作れるかということが、企業の生産性や競争力の源泉になるかもしれません。この部分もしっかりとやっていきたいですね。
AIを使ったサイバー攻撃の防御にも取り組むべき
- 倉持
- さらに、サイバーセキュリティの業務についてです。これまでの私たちは「生成AIをどんどん使っていこうよ」というスタンスでしたが、AIのセキュリティに関することにも、より力を入れていきたいですね。
生成AIとセキュリティの関係性としては、例えば生成AIを使ったフィッシングメールや詐欺メールなどが考えられます。これまではどうしても日本語の壁があったので、海外から日本を狙った攻撃においては、日本語が不自然なことが多くありました。しかしChatGPTを使っていて英語のメールの精度が上がったことは自分でも実感している通りで、それは敵もまたしかりです。今後生成AIを使った攻撃は増えてくると思うので、それをどう見抜くかが大事だと思います。
また、AIに対する攻撃もあると思います。私たちは自社でAIに学習させていますが、そこに対してAIが変な回答をするように、AIを騙すような攻撃が出てくると思います。それらの実態を把握し、研究サービスという形で取り組むべきだと考えています。
まだまだ、やるべきことはたくさんありますね。
さいごに
約半年間の、ラックでの生成AIに関する取り組みをご紹介しました。CoEメンバーを中心とした地道な取り組みによって小さな一歩が積み重ねられ、多くの社員の意識を変えていく大きな一歩となっていったと感じています。まだまだ試行錯誤している部分や課題もありますが、この記事がこれから生成AIの活用を検討している、既に試していて悩んでいる方のヒントになれれば幸いです。
ラックでは今後もより積極的な取り組みを重ね、自社やお客様企業の生産性向上、さらにパーパスである"たしかなテクノロジーで「信じられる社会」を築く。"に繋げてまいります。
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