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インシデントレスポンスとは?5つの対応フェーズと体制構築のポイント

サイバー攻撃を完全に防ぎきることは難しく、いつ被害に遭うかを前提とした備えが求められています。インシデントレスポンスの体制が整っていない組織では、発生時の判断に迷って初動が遅れ、被害が拡大するおそれがあります。

今回の記事では、インシデントレスポンスの5つの対応フェーズと体制構築のポイント、発生時の初動対応、外部の専門家を活用した平時からの備え方までを解説します。

インシデントレスポンスとは

インシデントレスポンスとは、サイバー攻撃などを受けた際に、適切な対応を取ることで被害を最小限に抑え、迅速な復旧を目指すための対応や体制構築を指します。まずはインシデントレスポンスの目的と今必要とされている背景、対象となるセキュリティインシデントの主な種類を解説します。

インシデントレスポンスの目的

セキュリティインシデントとは、組織の情報セキュリティに影響を及ぼす出来事や事象のことです。悪意ある第三者による攻撃だけでなく、設定ミスや従業員による情報の持ち出しなど、意図的・偶発的な事象も含まれます。インシデントレスポンスとは、こうしたインシデントへの対応プロセスです。

インシデントレスポンスの対象としては、マルウェア感染や不正アクセスなどの外部からのサイバー攻撃が代表例として挙げられます。サイバー攻撃は組織の情報資産や業務継続性に深刻な影響を与える可能性があるため、迅速かつ適切な初動対応が極めて重要です。

インシデントレスポンスの目的は、セキュリティインシデントが発生した際に組織が被る損害を最小限に抑え、迅速に侵害を除去することです。早期発見と適切な封じ込め措置により、被害の拡大を防ぎ、事業への影響を軽減します。

また、証拠保全や原因分析を通じて再発防止策を講じることで、組織のセキュリティ体制全体の強化にも寄与します。

なぜ今インシデントレスポンスが重要なのか

インシデントレスポンスが重要視される背景には、サイバー攻撃の変化があります。攻撃者の手法は年々高度化・巧妙化しており、従来の防御策だけでは完全に防ぎきれない状況です。

企業が直面する脅威は多様化し、影響も深刻化しています。ランサムウェア攻撃による業務停止は事業継続性を直接脅かし、サプライチェーン攻撃は取引先企業にまで被害が波及する可能性があります。

また、個人情報漏えい事件は法的制裁や損害賠償請求に加え、長期的なブランドイメージの毀損という回復困難な損失となりかねません。

このような環境下で、平時から適切なインシデントレスポンス体制を整えておくことは組織の生存戦略として不可欠です。事前の準備があるからこそ、インシデント発生時に迅速かつ効果的な対応が可能となり、被害を最小限に抑制し、事業の早期復旧につながります。

セキュリティインシデントの主な種類

インシデントレスポンスの対象となるセキュリティインシデントは、主に次の6種類です。種類ごとに初動で優先する対応が変わります。

種類 初動で優先する対応
ランサムウェア 感染端末の隔離、バックアップの隔離・保全とログの保全
フィッシング 該当アカウントの停止と認証情報の変更、セッション(トークン)の失効、メール転送ルール・多要素認証の登録内容の確認
不正アクセス 侵入経路の特定と該当機器の遮断
内部不正 対象者に気づかせないままの証拠保全とアクセス権の制御、人事・法務部門への連携
DDoS攻撃 攻撃トラフィックの遮断・緩和と回線事業者への連絡
サプライチェーン攻撃 取引先への連絡と影響範囲の確認

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編※1では、ランサム攻撃による被害が1位、サプライチェーンや委託先を狙った攻撃が2位です。ただし、この順位は社会全体での影響の大きさを示すものであり、自社での発生確率や損害の大きさと一致するとは限りません。自組織の業態と守るべき資産に照らして、備える順序を決めることが必要です。

※1 情報セキュリティ10大脅威 2026 | 情報セキュリティ | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

インシデントレスポンスの対応フロー|5つのフェーズ

インシデントレスポンスは、次の5つのフェーズで構成されます。本記事では、NIST(米国国立標準技術研究所)が発行するインシデントレスポンスのガイドラインであるNIST SP 800-61の考え方をもとに、事後対応と再発防止を分けた5つのフェーズとして整理しています。

  • 1.準備|体制と手順を事前に整える
  • 2.検知・分析|インシデントを特定しトリアージする
  • 3.封じ込め・根絶・復旧|被害の拡大を止める
  • 4.事後対応|報告と振り返りを実施する
  • 5.再発防止|対策に反映する

インシデントレスポンスの全体像や各フェーズで実施する内容は「今さら聞けない!インシデントレスポンスの基本」と題したホワイトペーパーにて詳細に解説しています。

インシデントレスポンス体制をこれから構築しようとする組織に向けて、IR計画を作成する際に検討すべき項目や注意すべきポイント、役割分担と関係者間の連携などを紹介します。

今さら聞けない!インシデントレスポンスの基本

今さら聞けない!インシデントレスポンスの基本
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①準備|体制と手順を事前に整える

準備フェーズで整えるのは、守るべき対象の把握と、体制と手順、そしてログです。ここでの備えが、その後の対応速度を決めます。

具体的な項目は、ネットワーク構成と情報資産の整理、対応責任者と連絡体制の明確化、インシデントレスポンス計画の文書化、外部相談先の確保、ログの取得範囲と保存期間の設定の5つです。

なかでも起点となるのが、ネットワーク構成と情報資産の整理です。どの機器がどのセグメントにあり、どこに個人情報や機密情報が保管されているかを把握していなければ、影響範囲の判断も、隔離すべき範囲の決定もできません。個人情報保護委員会への報告が必要かどうかの判断も、対象となるデータの種別と件数を把握していて初めて可能になります。

情報資産の一覧は、機器とデータ種別だけでは足りません。実際の対応で使える一覧にするには、次の観点を押さえておきます。

  • ハードウェア:サーバ、端末、ネットワーク機器、仮想基盤(OSとバージョン、設置場所、保守の契約先)
  • ソフトウェアとクラウドサービス:業務アプリケーション、SaaSやクラウドのテナント、外部に公開しているシステム
  • データ:種別(個人情報、要配慮個人情報、機密情報、決済情報など)、保管場所、想定件数、暗号化の有無
  • アカウントと権限:認証基盤(Active DirectoryやIdP)、特権IDの所在、多要素認証の適用範囲
  • ネットワーク:セグメント構成、外部との接続点(VPN、リモート接続、拠点間回線)、外部公開資産
  • 業務との紐づけ:資産ごとの管理責任者、支えている業務、停止した場合の影響度
  • 外部との関係:委託先や保守ベンダ、接続している取引先のシステム、緊急時の連絡先

網羅的な台帳をいきなり目指す必要はありません。外部公開資産、認証基盤、重要データの保管場所、ネットワークの境界機器から着手するだけでも、発生時の判断速度は大きく変わります。あわせて注意したいのが、更新されていない構成図です。実態と異なる情報をもとに隔離範囲を判断すると、封じ込めの漏れにつながります。半期に一度を目安に棚卸しを行い、最新の状態を保ちましょう。

特にログは、取得していなければ後から遡れません。連絡先がわからない、ログが残っていない状態では、異常に気づいても分析へ進めないためです。5つのフェーズのうち、準備だけは平時にしか実施できません。

連絡体制を定める際は、社内のメールやビジネスチャットが使えなくなる事態も想定しておきます。ランサムウェア被害では、業務システムと同時に連絡手段も失われることが少なくありません。代替の連絡手段や、印刷した連絡網をあらかじめ用意しておきましょう。

②検知・分析|インシデントを特定しトリアージする

インシデントレスポンスにおける検知・分析フェーズの要点は、事象がインシデントかどうかの判定と、優先順位づけです。

セキュリティ製品のアラートや従業員からの報告を基に、インシデントに該当するかを判断します。該当する場合はトリアージを行い、影響範囲と緊急度から対応の順序を決めます。すべてに同じリソースを割けないため、事業への影響が大きい事象から着手しなければなりません。

あわせて重要なのが証拠保全です。原因究明や後の法的対応に備え、関連するログや端末のイメージを調査前に取得しておきましょう。証拠が上書きされると、復元や確認が困難になるおそれがあります。

③封じ込め・根絶・復旧|被害の拡大を止める

封じ込め・根絶・復旧の3つは、順序を守ることが原則です。

封じ込めでは、感染端末のネットワーク隔離やアカウントの停止により、被害の広がりを止めます。続く根絶では、マルウェアを排除するとともに悪用された脆弱性を修正し、攻撃者の侵入経路を残さないことが重要です。そのうえで復旧に移り、システムを正常な状態へ戻して業務を再開します。

業務停止の影響が大きいほど復旧を急ぎたくなりますが、根絶が不十分なまま戻せば再感染を招きます。インシデントレスポンスでは、攻撃者の痕跡が取り除かれたことを確認してから復旧へ進むことが鉄則です。

初動で避けるべき行動

  • 感染が疑われる端末の電源を切る、再起動する:メモリ上にしか残らない痕跡が失われます。ネットワークからの隔離は行い、電源は落としません
  • 端末を初期化する、マルウェアを自己判断で削除する:原因究明と影響範囲の特定が困難になります
  • ログの上書きを放置する:保存期間の短い機器から優先して退避します
  • 攻撃者と独自に交渉する、身代金の支払いを単独で判断する:経営層および外部の専門家を交えて判断します

証拠は、失われやすいものから順に保全します。具体的には、メモリの内容、ネットワーク接続情報、ディスクの順です。封じ込めを急ぐあまり証拠を失うと、後続の調査と説明責任の履行に支障が出ます。

④事後対応|報告と振り返りを実施する

復旧後に行うのは、社内外への報告と、対応の振り返りです。

報告先は経営層や関係部署に加え、顧客や取引先、監督官庁が含まれます。個人データの漏えい等について、(1)要配慮個人情報が含まれる、(2)不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある、(3)不正の目的をもって行われたおそれがある行為による、(4)本人の数が1,000人を超える、のいずれかに該当する場合は、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が義務づけられています。いずれも「発生したおそれ」の段階で対象となるため、事実が確定するまで待つ必要はありません。※2

※2 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編) |個人情報保護委員会

報告は速報と確報の二段階です。速報は事態を知った時点から速やかに、確報は当該事態を知った日から30日以内(上記(3)に該当する場合は60日以内)に行います。起算点は経営層へ報告が上がった日ではなく、法人の場合はいずれかの部署が当該事態を知った時点である点に注意が必要です。また、本人への通知が困難な場合は、公表や問い合わせ窓口の設置といった代替措置を講じることも認められています。

振り返りでは、インシデント報告書を作成します。発生原因、影響範囲、実施した対応、復旧までの経過を記録に残すことで、次の対応の判断材料になり、外部への説明資料としても使えます。ここで得た教訓を言語化できるかどうかが、インシデントレスポンスの質を左右する重要なポイントです。

⑤再発防止|対策に反映する

最後のフェーズでは、振り返りで見えた課題を具体的な対策へ落とし込みます。

技術面ではログ取得範囲の拡大や多要素認証の導入、運用面では手順書の改訂や連絡体制の見直しが対象です。訓練の内容にも反映させると、次に同種の事象が起きたときの対応速度が上がります。

再発防止で得た結果を準備フェーズへ戻すことが、このフローの要点です。インシデントレスポンスは一度で完結する作業ではなく、5つのフェーズを循環させることで精度が高まっていきます。

インシデントレスポンス体制構築の要点

インシデントレスポンスは、事前の計画と体制整備が不可欠です。インシデントレスポンス体制構築におけるポイントは次の通りです。

  • CSIRTの役割と組織内での位置づけ
  • インシデント対応に必要なスキルと人材育成
  • インシデントレスポンス計画(IR計画)の策定
  • 検知・対応を支える仕組み(EDR・SIEM・XDR)

それぞれの要点を詳しくみていきましょう。

CSIRTの役割と組織内での位置づけ

インシデントレスポンス体制を強化する手段の1つが、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)と呼ばれる専門チームの設置です。CSIRTは、組織でセキュリティインシデントへの対応を主導する中核的な役割を担うことが多く、インシデントレスポンス体制の中で重要な機能を果たします。

CSIRTの機能は2つの重要な側面から構成されます。第一に「消火活動」としての事後対応があり、インシデント発生時の迅速な封じ込めや復旧作業が役割です。第二に「防火活動」としての事前対応は、平時からの情報収集、脅威分析、セキュリティ意識向上のための啓蒙活動を継続的に実施します。

効果的なCSIRT構築においては、事故はいつか起きるという現実的な前提に立つことが重要です。社内各部門との横断的連携体制を確立し、さらには社外の専門機関や同業他社との協力関係を築くことで、包括的な対応能力を獲得できます。

インシデント対応に必要なスキルと人材育成

インシデント対応における人材育成は、高度な専門技術をもつセキュリティアナリストの確保と育成が重要課題です。代表的な専門職として、マルウェアアナリストとフォレンジックアナリストが挙げられ、これらの専門家がインシデント調査の中心を担います。

マルウェアアナリストやフォレンジックアナリストは、報告されたセキュリティインシデントに対して詳細な分析を実施します。マルウェア検体の挙動解析、デジタルフォレンジック調査、ログ分析などを通じて攻撃の全容を解明し、被害組織に対する具体的な復旧支援とセキュリティ強化策を提案することが役割です。

また、トリアージ担当者は、インシデント発生時に迅速に情報を整理し、優先順位を付けて適切な対応へと誘導します。発生したインシデントの深刻度や対応の緊急性を総合的に評価し、限られたリソースを適切に配分するのが主な役割です。

ラックでは、従業員向けにインシデントレスポンスのセキュリティ講習を開催しています。一般社員、職員レベルや期間に応じた講習を用意しています。

コース名 内容 講習時間
インシデントレスポンス概論 『情報セキュリティ事故対応1日コース 机上演習編』の座学部分をオンライン用にカスタマイズしたコース 60分
情報セキュリティ事故対応1日コース 机上演習編 インシデントレスポンスを机上環境で体験できる 1日
情報セキュリティ事故対応2日コース 実機演習編 インシデントレスポンスを実機環境で体験できる 2日

インシデントレスポンス計画の策定

インシデントレスポンス計画(以下、IR計画)は、組織がサイバー攻撃に直面した際の対応準備を文書化した指針です。IR計画書により、混乱しがちな緊急時でも組織全体が統一された手順で効果的な対応を実現できます。

IR計画によって、IR対応の責任者の設定や連絡体制の確立、技術的対処手順、外部機関との連携方法など、詳細な行動指針をあらかじめ策定することで、実際のインシデント発生時の判断遅れや対応ミスを防止できます。また、法的要件や規制遵守も事前に整理し、適切な報告義務を果たせるよう準備できることもメリットです。

IR計画の策定において重要なのは、計画の継続的改善です。インシデント対応完了後には必ず振り返り会議を実施し、対応フローの妥当性、復旧作業の効率性、再発防止策の有効性を客観的に評価します。

検知・対応を支える仕組み(EDR・SIEM・XDR)

体制と計画を整えても、インシデントに気づけなければインシデントレスポンスは始まりません。検知を支えるのが次の3つの仕組みです。

  • EDR:端末上の不審な挙動を検知し、隔離や調査を行う
  • SIEM:各種機器のログを集約し、相関分析によって単体では見えない兆候を捉える
  • XDR:端末、ネットワーク、クラウドを横断して検知と対応を行う

また、ネットワーク上の通信を監視するNDRは、EDRを導入できない機器やOT環境を含めて不審な挙動を捉える手段として併用されます。

ただし、導入するだけで十分とはいえません。アラートを継続的に監視し、正検知か過検知かを判断する運用が伴うことで、検知・分析フェーズを適切に進められます。自社での運用が難しい場合は、監視を外部へ委託する方法もあります。

インシデント発生時の初動対応と連携

インシデント発生時の初動対応のイメージ

インシデント発生時は初動対応が何よりも大切です。関係者と即連絡を取り、適切な対処を行うことで被害を最小限に抑えなければなりません。

インシデント発生時の初動対応と連携でポイントとなる要素を詳しくみていきましょう。

発生時に行うべき最優先事項とは

インシデント発生時の最優先事項は、被害の拡大阻止と適切な初動対応の実施です。初動対応の段階では冷静かつ迅速な判断が組織全体の被害規模を決定するため、事前に策定された手順に従った組織的対応が求められます。

まずは発生事象と影響範囲の特定です。同時に、CSIRTなどの専門対応チームが中心となり、詳細調査や法的対応に備えて、関連するログデータやシステムイメージの証拠保全を実施します。

収集した情報を基に、今回の事象がセキュリティインシデントに該当するか否か、該当する場合の緊急度レベルを客観的に判定します。初期トリアージにより、限られた対応リソースを効果的に配分し、影響を最小限に抑制できる適切な対応戦略を決定します。

関係各所への適切な報告と情報共有

インシデント発生時は、適切なタイミングと方法での情報開示により、ステークホルダーとの信頼関係を保持しながら、協力的な対応体制を構築しなければなりません。

社内では各部署と経営層への迅速な状況共有により組織的対応を調整し、社外では顧客や取引先、監督官庁など、関係機関への適切な通知を行います。特に個人データの漏えい等が生じた場合は、法令の要件に該当すれば本人への通知が義務となります。本人への通知が困難なときは、公表や問い合わせ窓口の設置といった代替措置を講じます。

大規模インシデントや社会的影響が広範囲に及ぶ場合は、状況や法令上の要件に応じて、公式Webサイトやメディアを通じた公表を検討する必要があります。あわせて問い合わせ窓口を設置し、関係者からの質問や不安に迅速に対応することで、混乱の拡大を防ぎましょう。

専門組織への相談と支援要請の判断

自社リソースだけでは解決困難な高度な技術的課題や、法的対応が必要な複雑なインシデントにおいて、専門組織との連携は被害最小化と適切な問題解決のために重要です。

支援要請先としては、IT製品メーカーや保守ベンダからは技術的な解決策と復旧支援を、IPAやJPCERT/CC、都道府県警察のサイバー犯罪相談窓口といった公的機関からは、届出を通じた技術的助言や、情報共有による同種被害の防止につながる支援を受けられます。※3なお、法的責任の評価や公表文面の適法性の確認については、顧問弁護士など法務の専門家に相談することが必要です。また、業界団体や専門コンサルティング会社からは、類似事例の知見や最新の脅威情報を得られます。

※3 IPA「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」

将来的な訴訟対応を見越した証拠保全とフォレンジック調査の実施も重要なポイントです。法的責任の明確化、損害賠償請求への対応、規制当局への報告義務履行などにおいて、専門的なデジタルフォレンジック技術による客観的事実の確定が欠かせません。

インシデントレスポンス能力向上のために

インシデントレスポンスのイメージ

インシデントレスポンス能力向上のためには、定期的な訓練とインシデント対応計画の見直しが必要です。最新のサイバー脅威情報の継続的な収集は常に必要であり、可能であれば外部専門サービスの活用も選択肢に入れるべきでしょう。

インシデントレスポンス能力向上は、組織の安定した運営には欠かせません。インシデントレスポンス能力向上のために必要な要素を解説します。

定期的な訓練とインシデント対応計画の見直し

インシデントレスポンス能力の向上には、定期的な訓練が欠かせません。訓練を重ねることで、実際のインシデント発生時における対応品質と効率を高められます。

定期訓練のインシデント報告書には発生原因の詳細分析、実施した対応策、復旧作業の経過記録、将来的な再発防止策などが記載され、これらの文書化能力は訓練を通じて段階的に習得可能です。適切な報告書を作成することで、事後検証の精度を高められます。

また、効果的なインシデントレスポンスを維持するためには、セキュリティポリシーやルールの定期的な見直しも不可欠です。新たな脅威動向、技術環境の変化、組織体制の変更に対応して、既存の手順書や対応計画を適切に更新しなければなりません。

訓練やシミュレーションで発見された問題点を組織的にフィードバックし、次回の訓練内容や対応手順の改良に反映します。

最新のサイバー脅威情報の継続的な収集

インシデントレスポンス能力の向上において、最新のサイバー脅威情報を継続的に収集する脅威インテリジェンスの活用が必要です。

脅威インテリジェンスとは、攻撃者の手法や標的選定基準、使用ツールなどに関する情報を先行的に収集する取り組みです。収集、分析、評価、配布の各段階で組織の状況に合わせて分析することで、最新の脅威情報を組織の具体的な対策指針へと反映できます。脅威インテリジェンスの活用により、将来的な攻撃パターンの予測と事前の対策準備が可能です。

脅威インテリジェンスを基盤とした戦略策定により、組織は限られたセキュリティ予算を効果的な領域に集中投資できます。全方位的な防御ではなく、自組織に対する現実的脅威に焦点を絞った重点防護により、投資対効果を高められます。

また、攻撃者の戦術変化に応じた対策調整も可能となり、常に一歩先を行く防御体制を構築できることもメリットです。

外部専門サービスの活用も選択肢に

インシデントレスポンス体制の効果的な構築において、外部専門サービスの活用は、現実的な制約を踏まえた実用的なアプローチです。

まず、経営層によるインシデントレスポンスの正しい理解と承認獲得が欠かせません。経営陣がサイバーセキュリティを単なるIT部門の技術課題ではなく、事業継続性に直結する戦略的経営課題として認識することで、適切な予算配分と組織的支援を確保できます。

実装段階では、利用可能な人材と予算の制約を現実的に評価し、活動範囲を最小限に絞ったスモールスタートからの構築が効果的です。全機能を自社で内製化する必要はなく、高度な技術的専門性が要求される分野や緊急時対応は、外部専門家を積極的に活用します。

外部の専門家を活用することで、限られたリソースでも実用的なインシデント対応能力を迅速に確立でき、組織の成長に応じて段階的に機能拡張を図れます。

インシデント対応を外部の専門家と備える方法

フォレンジック調査のような高度な専門性や、深夜・休日に発生したインシデントへの対応まで、すべてを自社で担うのは現実的ではありません。ここでは、外部の専門家を活用する方法を、スポット型と事前契約型の2つに分けて解説します。

発生後に依頼するスポット型と事前契約型(リテーナー)の違い

外部活用の形は、依頼のタイミングによって次のように分かれます。

比較項目 スポット型 事前契約型(リテーナー)
契約方式 発生後につど契約 平時に年間契約
発生時の着手 契約手続きを経て開始 契約済みのため速やかに着手
初回打ち合わせ ベストエフォート 目標時間(SLO)を事前に設定
平時の相談 対象外 疑いの段階から可能
フォレンジック調査 ベストエフォート 契約企業を優先対応

ラックの場合、スポット型がインシデント対応支援サービス「サイバー119」、事前契約型がインシデント対応事前契約サービス「LAC IRR」にあたります。着手までの速さは、インシデントレスポンスをどちらの形で備えるかを判断する際の重要な要素の1つです。

事前契約で備えるメリット

事前契約の価値は、発生後の対応が速いことだけではありません。

  • 初動の判断が早まる:インシデントの疑いの段階から相談できるため、事故かどうかの見極めで足踏みしません
  • 判断の精度が上がる:アラートが正検知か過検知か、注意喚起にどう対応すべきかを専門家に確認できます
  • 社外への説明を支えられる:監督官庁や顧客への報告に向けた整理や、個人情報保護委員会への速報対応まで支援を受けられます

インシデントレスポンスで損失につながりやすいのは、判断に迷って初動が遅れる時間です。事前契約は、その時間を短くするための備えといえます。

自社に合った備え方の選び方

インシデントレスポンスの備え方を選ぶ軸は、事業への影響の大きさと社内体制の2つです。

システム停止が事業停止に直結する、扱う個人情報が多い、監督官庁への報告義務があるといった組織では、着手の速さが被害規模を左右するため、事前契約型が向いています。事前契約までは必要としない場合でも、インシデント発生時に利用できるスポット型の相談窓口をあらかじめ確認しておくとよいでしょう。

なお、LAC IRRでは、CISOなどの責任者とCSIRT等の対応組織が定義されていることを推奨しています。これに当てはまらない場合も、規模や業種を問わずご相談ください。適用条件の詳細は、お問い合わせの際にご案内します。

インシデントレスポンスに関するよくある質問

インシデントレスポンスについて、実務でよく寄せられる質問をまとめました。

インシデントレスポンスとインシデント対応は同じ意味ですか?

ほぼ同じ意味で使われます。インシデントレスポンスは英語のIncident Responseをそのまま表記したもので、日本語ではインシデント対応と訳されます。

文脈によっては、インシデント対応が発生時の作業そのものを指し、インシデントレスポンスが準備から再発防止までのプロセス全体を指す場合もありますが、実務上の使い分けは厳密ではありません。関連する用語として、頭文字を取ったIRや、デジタルフォレンジックと組み合わせたDFIRという呼び方も使われています。

CSIRTとSOCの違いは何ですか?

役割の重心が異なります。SOC(Security Operation Center)は、セキュリティ機器のログやアラートを継続的に監視・分析し、脅威を検知することが主な役割です。

一方のCSIRTは、検知された事象を受けて、影響範囲の判断、封じ込め、社内外への報告、再発防止までを専門チームとして主導します。前者が見つける機能、後者が対処する機能と整理するとわかりやすいでしょう。組織の規模によっては、両者を1つのチームが兼ねる場合もあります。

インシデントレスポンスの訓練はどのくらいの頻度で実施すべきですか?

頻度を定めた公的な基準はありません。ただし、実施時期を判断する材料はあります。JPCERT/CCのインシデントハンドリングマニュアル※4では、想定されるインシデントのリストの見直しと検知の仕組みの検証を3か月から6か月を目安に定期的に行い、検知から報告、トリアージまでの流れが手順どおり機能するかを演習などで定期的に確認するよう示されています。

※4 JPCERT/CC「インシデントハンドリングマニュアル」

訓練には、会議室で状況付与に対する判断を検討する机上演習と、実機を使って検知から封じ込めまでを行う実機演習があります。まず机上演習で連絡体制と判断の流れを確認し、慣れてきた段階で実機演習へ広げる進め方が現実的です。

インシデントレスポンスを学べる書籍や公開資料はありますか?

まずは公的機関の資料が実務に直結します。IPAは「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」※3を公開しており、体制づくりから発生時の流れまでを確認できます。JPCERT/CCは、組織内CSIRTの構想から構築、運用までを3つのフェーズで解説した「CSIRTマテリアル」※5を提供しています。

※3 IPA「中小企業のためのセキュリティインシデント対応の手引き」

※5 JPCERT コーディネーションセンター CSIRTマテリアル

自社の体制づくりに落とし込む段階では、ラックが公開しているホワイトペーパー「今さら聞けない!インシデントレスポンスの基本」も参考になります。IR計画を作成する際に検討すべき項目や、役割分担と関係者間の連携を紹介しています。

今さら聞けない!インシデントレスポンスの基本

今さら聞けない!インシデントレスポンスの基本
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フォレンジック調査では何がわかりますか?

不正アクセスやマルウェア感染について、攻撃経路や被害範囲、情報が外部へ流出した可能性などを専門的な手法で調査・確認します。

端末単位で調べるコンピュータフォレンジックのほか、大規模なインシデントを対象とするエンタープライズフォレンジックの手法もあります。調査結果は報告書としてまとめられ、監督官庁や顧客への説明資料、再発防止策の検討材料として使われます。インシデントレスポンスにおいて、原因の特定は、より適切な再発防止策を検討するうえで重要です。

インシデントの「疑い」段階でも相談できますか?

相談できます。ラックのサイバー救急センターでは、インシデント対応支援サービス「サイバー119」を24時間365日・予約不要で受け付けており、被害が確定していない段階でも連絡できます。

また、インシデント対応事前契約サービス「LAC IRR」を契約している場合は、アラートが正検知か過検知かの判断や、不審ファイルの解析といった平時の相談にも対応可能です。インシデントレスポンスで初動が遅れる原因の多くは、事故かどうかの見極めに時間をかけてしまうことです。判断に迷った時点で相談することが、初動の遅れを防ぐ有効な方法といえます。

まとめ:インシデントレスポンスは平時の備えで差がつく

本記事で解説したインシデントレスポンスに関する要点をまとめます。

  • インシデントレスポンスとは、被害を最小限に抑え、早期復旧を目指す一連の対応活動です
  • 対応は準備、検知・分析、封じ込め・根絶・復旧、事後対応、再発防止の5つのフェーズで進みます
  • 準備の起点は、ネットワーク構成と情報資産の把握です。守るべき対象がわからなければ影響範囲を判断できません
  • 体制面ではCSIRT、人材育成、IR計画に加え、EDRやSIEMを運用する仕組みが必要です
  • 発生時は被害の拡大阻止と証拠保全を優先し、関係各所へ適切に報告します
  • すべてを自社で抱えず、外部の専門家を平時から確保する方法もあります

まずは自社のインシデントレスポンスが、5つのフェーズのどこで止まっているかを確認してみてください。

フォレンジック調査や緊急時の対応には専門的な知見が求められます。被害の疑いが生じた時点で、インシデント対応支援サービス「サイバー119」へご相談ください。平時からの備えを検討される場合は、インシデント対応事前契約サービス「LAC IRR」があります。

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