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企業成長を推進するクラウド管理と未来の展望

1990年代後半から2000年代初頭にかけて、Application Service Provider(ASP)が登場し、クラウドサービスの先駆けとなりました。特に2006年にAmazon社がAmazon Web Services(以下、AWS)を発表してからは、多くの企業がクラウドサービスの提供を始め、今日ではビジネスの急速な変化や企業の成長に不可欠なツールとなっています。

しかし、限られた資金やリソースを最大限活用するには、リソースの過剰なスペック、部門ごとの異なる契約形態、アカウント設定の違いなどの適切な管理が不可欠です。これらを効率的に管理することが、クラウドサービスを通じて企業成長を支え、事業の持続可能性を保つ鍵となります。

クラウド管理とは

クラウドサービスを効果的に活用するための「クラウド管理」とは、どのようなものなのでしょうか。

クラウド管理の定義

「クラウド管理」とは、パブリック、プライベート、ハイブリッドのクラウドコンピューティング環境における、リソースやサービスの管理を行うことを指します。これには、クラウドサービスプロバイダによって提供される、仮想マシン、ストレージ、ネットワークなど仮想化されたリソースや、データベース、アプリケーション、セキュリティサービスなどの運用、監視、最適化が含まれます。これらのリソースやサービスを適切に管理することで、クラウドサービスの利用状況や構成を最適化します。

なお、各クラウドプロバイダによって得意分野やコスト構造に違いがあります。例えば、Microsoft Azure(以下、Azure)はMicrosoft 365の利用やEntra IDを使用したID管理に優れ、AWSは広範囲なサービスを提供しています。近年では、これらの特性を活用して各サービスの最適な組み合わせを実現する、マルチクラウド構成が一般化しています。

一方で、複数のクラウドプロバイダを管理することによる運用コストの増大が懸念される現状もあります。

クラウド管理者の役割と責任

クラウドサービスプロバイダが提供するリソースやサービスは、利用品目に応じてサービスレベルが定義・保証されています。しかし、企業内で「何を」「だれが」「いつ」「どれくらい」使うかを決定するのはクラウド管理者の役割です。

以前はすべてのIT資源がオンプレミス環境で管理されていましたが、現在ではだれでもいつでもクラウドサービスを利用して業務効率化を図れます。そのため、クラウドサービスの使用状況を正確に把握し、最適化する責任がクラウド管理者にはあります。

クラウド管理の要素

企業においてクラウドサービスは適切に管理される必要があります。そのために検討すべき重要なポイントをいくつか見ていきましょう。

クラウド管理のイメージ

リソースの効率的なプロビジョニングと管理

システムの安定稼動を保証するための最小限のプロビジョニングやスケーリングを行います。また、リソースの利用状況を監視し、必要なリソースを追加または遊休リソースを最適化します。

セキュリティとコンプライアンスの管理

アクセス管理、認証、暗号化、セキュリティポリシーの遵守などを行います。世界中で日々発生する脅威のモニタリング、侵入の検知、脆弱性の管理を継続的に行い、適切に対処します。

コスト管理と最適化

ビジネス予算と要件に合わせた契約形態や料金設定を管理し、遊休リソースの最適化を通じて無駄を省きます。契約を一本化することで、複数の契約管理に伴うコストや労力を削減し、全体的な事業運営の効率化を図ります。

パフォーマンス監視と最適化

サービスの安定性とレスポンスを保証するために、パフォーマンス監視やトラブルシューティングによるチューニングを行います。パフォーマンス情報を収集し、エンドユーザにストレスのないレスポンスを提供します。

バックアップと災害復旧

有事の際に備え、データのバックアップと災害復旧計画の策定・実施が必要です。災害復旧計画では事業継続計画を基にしてシステムの復旧優先度を決定し、RPO(Recovery Point Objective:目標復旧時点)とRTO(Recovery Time Objective:目標復旧時間)、および対応フローを明確にします。計画策定後は、クラウドサービスプロバイダやシステムの障害、セキュリティインシデントから迅速かつ適切に復旧できるよう訓練を行い、企業のレジリエンスを向上させます。

IaCツールの採用

AWS CloudFormationやAzure Resource Managerなど、インフラをコード化し構成管理を支援するツールを活用します。これにより、一貫性の確保と運用コストの削減を図ります。また、クラウドプロバイダを跨ぐ運用が可能なHashiCorp社のTerraformなどの採用も検討する価値があります。

設計原則の適用

AWS Well-Architected Framework※1、Microsoft Azure Well-Architected Framework※2など、クラウド環境を利用するための設計原則を示すフレームワークが存在します。これらは、クラウド環境の運用管理に不可欠な概念を提供しますが、内容が多大で解釈が難しい箇所もあります。プロバイダが提供するこのフレームワークを評価するツールの利用も1つの方法です。

※1 AWS Well-Architected Framework - AWS Well-Architected Framework

※2 Azure Well-Architected Framework - Microsoft Azure Well-Architected Framework | Microsoft Learn

SaaS管理

AWSやAzureにはさまざまな管理ツールが提供されていますが、SaaSではユーザが管理可能な範囲は大きく限られます。この場合、サービスのSLA(サービスレベル合意)やSLM(サービスレベル管理)をしっかりと意識することが重要です。

SLA(Service Level Agreement:サービスレベル合意)

SLAはプロバイダがユーザに提供するサービスの品質やパフォーマンスレベルを定義した契約です。SaaS利用者は、IT事業継続計画書等で定義されたビジネス要件に合致することを前提にプロバイダ選定を行う必要があります。

SLM(Service Level Management:サービスレベル管理)

SLMは、SLAで定義されたサービスレベルを維持し、向上させるためのプロセスです。これには、SLAの監視、パフォーマンスの評価、問題発生時の対応などが含まれます。

SLMは基本的にプロバイダ側の責任と活動に関連していますが、プロバイダとユーザ間の協働が必要です。ユーザ側では契約時にSLAのレビューを行うことはもちろん、サービスのパフォーマンスを監視し、適切なフィードバックを提供すること、そしてビジネスの連続性とセキュリティ要件を確実に満たしているかを定期的に確認することが重要です。

クラウド管理の今後

さまざまなIT技術は日々進歩しており、技術革新によってクラウド管理の負担が限りなくゼロに近づく将来が訪れるかもしれません。以下に挙げるのは、その進化の一例です。

AIおよび機械学習との統合

AIや機械学習を活用することで、自動的なパフォーマンス最適化や脅威の迅速な排除が可能になると期待されています。これにより、無駄のないコスト負担、ストレスフリーなレスポンス、そして安全な事業運営を支えるセキュリティが自動的に確保される未来が見込まれます。

エッジコンピューティングの進展

エッジコンピューティングの普及により、データ処理とリソースがクラウドからエッジデバイスに移行し、リアルタイムな処理が可能になります。これにより、エッジデバイスから必要な情報のみがクラウド側に送信され、分析・評価のみがクラウドで行われるようになります。結果として、インフラストラクチャの管理が減少し、リソースやコストの最適化、セキュリティレベルの確保に関する負担が軽減されることが期待できます。

サーバレスコンピューティングの増加

サーバレスアーキテクチャの利用が増加していくと、インフラストラクチャプロビジョニングを最小限に抑えられます。これによって、インフラストラクチャの管理が減少し、開発者がアプリケーション開発とデプロイメントにフォーカスした、セキュリティの担保にのみ労力を割けるような将来が待っているかもしれません。

持続可能なクラウド

近年、エネルギー消費と炭素排出の削減に向けた取り組みが、IT業界全体で重要視されています。クラウドプロバイダは、より持続可能なサービス運用を目指して、グリーンエネルギーの利用拡大やエネルギー効率の高いデータセンタ設計の推進に取り組んでいます。

近い将来、クラウド管理ツールは、エネルギー消費量のモニタリングを可能にし、コスト最適化だけでなく、法令や規制への対応を支援するような機能を提供することが期待されます。

さいごに

以上がクラウド管理を行う上での主要な考慮事項です。もちろん、各企業特有の考慮事項も存在しますが、これらのポイントを適切に管理することで、企業はクラウド利用を最大限に活用し、その大きなメリットであるスピーディなビジネス展開と効率的な運営を実現することが可能となります。

ラックでは、これまでに挙げたクラウド管理の実装や運用に日々取り組んでいます。クラウド環境のインテグレーションをはじめ、IaC(Infrastructure as Code)の導入支援、マルチクラウド管理、さらにはお客様の課題解決のためのシステム管理全般のコンサルティング支援など、幅広いサービスを提供しています。

より詳しく知るにはこちら

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お客様が抱えているお悩みを共に考え、解決策を見つけられるよう、専門知識と経験を活かしたサポートを行います。どのようなお悩みでもご相談ください。

プロフィール

山田 一樹

山田 一樹
システムインテグレータの経験を持つITコンサルタント。最新の技術に興味があり、"触ってみる"をモットーに日々勉強しています。モダンな技術と実践的なノウハウを結び付け、業務に取り入れる方法や技術情報を発信してきます。

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