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新規事業開発部では、地域ならではの課題をデジタル技術の活用で解決し、地域の暮らしを守る取り組みをしています。
今回は、旭川市女性活躍推進部の皆様と連携したイベント「自分で自分の幸せを作る『Mint-ワタシはここにいる』」の開催レポート後編です。自分で自分の幸せを作るために必要なことをはっきりさせる「フォローアップデイ」、最終日であるDAY 3の様子をご覧いただきます。
起業をすることが目的になってはいけない
DAY 2を終えて、自身の事業の価値がどこにあるか、本質的な受益者は誰かなど、事業をするにあたって基盤となる部分をお伝えできたように感じました。
イベントの後半をwomomの山田氏と設計する中で出てきた話題が、自分の幸せが何かが分かることの大切さでした。その理由は、自由に働きたいから、やりたいことができそうだから起業しても、自分が幸せになっている具体的なイメージが無いと、継続性がない脆いものになりがちだからです。
そこでDAY 2の宿題は、下記のシートを使って「事業」という目線とは別軸で「自分の幸せな状態像と現在地のギャップは何か」を捉えてもらうことにしました。自身の幸せな状態や、そこに行き着くまでに必要なことの解像度を上げ、目的に向かって時間を過ごしてもらうためです。
山田氏にこのシートを見せたところ、「私がこのシートを使って、参加者と一緒に一人ずつ公開で対話をします。」と提案をいただきました。
「自分の現在地」と「自分の理想」のギャップを知るシート
このシートについて簡単に説明します。例えば、「1年後に脂肪率を8%にして、ボディービルダーの大会に出ている自分」が理想だったとします。その理想に対して、「半年間筋トレを継続しているが、脂肪率が20%」という現在地があったとします。この時、陥りがちな思考としては「まだ脂肪率が20%、まずい!どうしよう!」と現在地に固執しすぎて、「努力が無駄だ」「もうやめようかな」「こんな理想無理じゃないか?」と捉えてしまいがちです。
ただ、あくまでも現在地は「起きていること=事実」でしかないということです。本質的に「自分の幸せな状態像」に一歩ずつ近づくためには、現在地と理想の間にあるギャップである課題の洗い出しが必要です。なぜ理想像に近づけていないかのギャップ(仮説課題)を、自分なりにたくさん出してみるということです。
今回の例で話すと、「1週間に1回、ラーメンを食べているから?」「筋トレのやり方が間違っているから?」「年齢的に代謝が落ちているから?」など、理想に近づけていない原因をできるだけ多く出します。このギャップをどれだけ色々な視点で出すことができるかが重要なのです。
この考え方は、私が参加しているBONO(ボノ)という、Webのユーザーインターフェイス(UI)やユーザーエクスペリエンス(UX)を学ぶ、デザインコミュニティで触れたものの一つです。ここから少しだけ、デザイナーとしての話をします。
あるサービスのUI・UXを設計する際には、「起きている事実」と「叶えたい未来」が必ずと言っていいほどあります。叶えたい未来を実現させるため、作る側の勝手な想像だけで作るのではなく、包括的な視点で現状と未来のギャップを洗い出さなければいけません。その作業を怠ると、単純にデジタル化で美しい画面を作ったとしても、全く使われないUIとなってしまいます。
昨今、「デジタル化=DX」と認知されていることがありますが、デジタル化はあくまで課題解決の方法の一つでしかありません。叶えたい未来のために、包括的に他にも解決しないといけない課題があります。さまざまな取り組みを組み合わせて行うことで、現状よりもいい体験(=人間の行動の状態)を起こそうとする状態がDXなのです。
だからこそ、叶えたい未来の実現や目的を果たすために、起きていること・理想の状態像を設定し、その間にあるギャップ(仮説課題)の洗い出しを行い、デザイナーとして叶えたい未来を実現する手段を提案できなければいけません。そういった思考の整理のため、私は普段から上記のシートをよく活用しています。
そこで、「現在地」と「理想像」の間にある課題を自身で見つめ直す考え方をフォローアップデイのワークに活用し、シートは参加者の「幸せな状態に辿り着くため」のロードマップとして使ってもらおうと考えました。
自分の幸せな状態と今のモヤモヤを公開
フォローアップデイは自由参加なので、参加者が集まるか少し心配していましたが、前回の半分の8名に参加いただきました。
前述したシートを宿題として渡しており、当日は記入してもらった内容を参加者全員の前で発表します。山田氏は参加者の思考の軌跡を書き写しながら、一歩踏み込んだ問いかけによって、自分の幸せとはどんな状態であるかをクリアにしていきます。
そこで、山田氏から「でも・どうせ・だって」の3Dをいかに攻略していくかが大きなポイントだという、カウンターパンチのような言葉が飛び出しました。
「現在地の自分」と「理想の自分」の間にあるギャップを発表していく中で、ボトルネックになっているプライベートの重い課題にも目を向けなければいけない人もいます。山田氏との対話で課題がクリアになっていく場合もあれば、改めて自分のブレているところや、そもそもの自分の性格や考え方に戸惑う場合もありました。そんな参加者に対して、「私も不安はたくさんあります。だけど、自分が心地よい方法で不安を一つずつ潰していくと自信になります。まずは進めていくことが大事ですよ。」と励ましました。
さらに、何があっても生活基盤を確保することが大事なポイントだと、旭川市で女性の起業支援をしてきた山田氏ならではの真摯なフィードバックがありました。
参加者の皆さんからは、「こういう時間が必要なことは分かっていたけれど、強制的に取れることがなかった。取ろうとしても一人だとなかなか難しかったので、クリアになって良かった。」という声をいただきました。
やはり、母でも妻でもない、個としての時間を、様々な立場にある女性が一人で作ることは難しいのかもしれません。もっと自分自身と向き合う機会を創出する、周囲のサポートが必要なのではと感じました。
それぞれの答えを出した最終日
旭川に雪が降り始めた最終日は、これまでの総括として「私はこういう選択をします」という参加者それぞれの結果と、結果に至った理由を発表していきます。
一方で、フォローアップデイに来られなかった参加者は、少人数で山田氏と打ち合いをしてもらい、これからの方向性についてアウトプットしました。
結果として、DAY 1の講演を聞いて実際に起業をしてみる、本業を続けながら今できる行動を実行してみる、自身の本質的に達成したい幸せは起業ではなく「誰かにとっての喜びになること」なので、違う手段で叶えてみるなど、参加者がそれぞれの方向性に辿り着いたようでした。少なくともこのイベントに参加する前よりも、納得した答えを手にした表情が印象的でした。
最後に山田氏と、ラックの又江原からイベント全体の総括をしたところ、どちらからも同じ言葉が出ました。「皆さんの選択にゴールは無いので、思いを達成するためには継続が重要です。そのための行動を起こし続けてください。」と激励し、最終日を終えました。
イベントを主催して感じたこと
イベントを設計して良かったと感じたことは、コンセプトを「起業についての成功法」ではなく、起業するよりも前の段階の、「自分で自分の幸せを作る女性を増やす」としたことでした。地域創生事業室のデザイナーという立場でイベントを主催する以上、参加者の皆さんがより良い状態になれる仕掛けや時間を創出し、参加したことに満足してほしいと考えました。
有難いことに、旭川市が発信した事業という信頼があったことや、山田氏の強力なサポート、何より参加者の高いモチベーションにより、参加者の次のアクションに繋がるポジティブなイベントにできました。また、市の担当の方も一緒にイベントを作ってくれて、町の女性と実際に接してきた立場からの意見や、イベントの方向性を検討する際の気付きを得られました。
また、イベント終了後に参加者からアンケートをとったところ、非常に高い満足度を得たと回答がありました。ここでその一部をご紹介します。
- 自分の理想と現在地を明確にして、ギャップを埋める仮説をしっかり壁打ちしてもらえて有難かったです。
- ワークショップで出会えた方と、強い繋がりを感じられる仲間となれて良かったです。
- 理想の部分だけではなく、しっかり現実的なところを聞けたことが大きかったです。
今回のイベントは単発で終わるのではなく、可能な限り継続して取り組んでいきたいと思います。回を重ねていく中で、いつかここで学んだことや体験したことをきっかけに、本当の意味で自分の幸せを作れる人が増えていってほしいです。
また、一度参加した方もOGとして再度参加してもらえたら嬉しいと思っています。
さいごに
まだまだデザイナーは修正作業(お化粧直し)などができる人と認知されていることが多く、もちろんそういった作業もデザイナーの職務として残ってはいます。ただ、徐々にAIに作業を託せる部分が増える時代となり、デザイナーにできることは何かを本気で考えなければいけない危機感を感じています。
その答えを見つけるには、デザイン(手段)を使って、「どんな状態に町をしたいのか」や、「何のためのサービスなのか」を深く掘り下げ、自分なりのより良い状態とは何かを考え続けなければいけません。そうでなければ、きっとクライアントにサービスの最適解を提案できないからです。
だからこそ、今回のようなイベントなど、AIにはできない実際のコミュニティでの対話、足を運んで見る・聞く・感じるなどの実体験を通して見えてくるものをいかに吸収できるかが、とても重要だと感じています。
今後も地域で生きるデザイナーとして、生身の人間にしかできない行動を真摯に取り組んでいきたいと思います。
おまけ
旭川市のパン屋さん「fumiぱん」のご主人に、今回もイベントで提供するパンを依頼しました。焼きたての温かいパンを持ってきてくださり、参加者の皆さんもとても喜んでいました。ありがとうございます!
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