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自治体と進めるDXの実証実験「デジタルツールで発達に課題のある子どもの支援の現場をつなぐ」レポート【後半】

新規事業開発部、地域創生事業室でデザイナーをしている今田三貴子です。

昨年10月、発達に課題のある子どもにとっての最適な支援ツールを開発する、大阪府豊中市とのプロジェクトについてお伝えしました。

今回はプロトタイプを実装してヒアリングに赴き、このサービスが必要とされるものになるかどうかをまとめた、後半のレポートです。

豊中市ならではのニーズが見えたヒアリング

まずは、自治体の方が思う必要な項目のみを反映したプロトタイプゼロ版を持ってヒアリング1回目を開始しました。「そもそもそんなサービス要らない」、「忙しいから使っていられない」などの声が出てくるのではと戦々恐々としていましたが、ヒアリング1回目を終えてみると、関係各所機関それぞれの当事者が「連携」にまつわる様々な課題を抱えているという実態が見えてきました。

特に「送迎サービスに関わる連携の困りごとを解消したい」という大きなニーズがありました。児童発達支援事業には、園・学校から通所施設までの送迎サービスがあります。その送迎についての連携に負担感があるということでした。豊中市は、大阪の中でも第4位の人口が暮らす街ですが、道幅が狭い箇所が多くあります。大きな商店街もあり、通学時間となると、住宅地の狭い路地を多くの車・自転車・歩行者で溢れます。このような地形的な理由もありつつ、園・学校側として以下のような課題がありました。

  • 駐車してほしくない場所に駐車している
  • なかなか時間通りに迎えが来ない
  • 逆に5分程度であれば連絡は不要ではあるが、遅延するという電話が頻繁で対応しきれない

「どんな情報を共有すればいいか」を絞り出す必要性があるという実態が浮かび上がってきました。

「使ってもらえるUI」に辿り着かない

ヒアリング1巡目を受け、ユーザーインターフェイス(以下、UI)については私が担当し、開発についてはノーコードツールBubbleを使って、部内メンバーと相談しながら進めました。その際に揉みこんだ点は以下でした。

  • このサービスで果たしたいことは何か
  • 現状ではできないけれど、将来的に果たしたい機能
  • 個人情報となったときのセキュリティ対策
  • 新規登録時のユーザーの工数を減らすにはどうしたらよいか

先述したような、豊中市ならではの課題を解消するための機能や必要な要件を洗い出し、最後のヒアリングまでに実装できる範囲を固めます。ひとまず、欲しい要素のみをピックアップしたUIを作成してみました。出来上がったUIがこちらです。

プロトタイプゼロ版のUI。プロトタイプゼロ版には情報の温度差がない、一番使ってほしい人が見えていない、使う場面が想定されていないという課題がある。

残念ながら、最初に制作した画面構成には情報の重要度に全く差がなく、これでは使ってもらうイメージが全く湧きませんでした。

私が考えるよくないデザインは、「使えないデザイン」です。当事者不在の余計な機能や画面遷移ばかりでユーザビリティが低く、当初の課題が解決されなかったデザインでは結局使われなくなってしまいます。もっと言ってしまえば、検討した結果「紙が一番いい」となればデジタル化という改善行為も不要だということです。ユーザーが「本質的に必要とする行為や機能」とは何かを突き詰めながら、制作者側の安易な発想や主観は削ぎ落としたものでなければいけないと考えています。

改めてヒアリングでいただいた声を読み直し、何度も自治体の方にUI構成のコメントをもらいながら改善を繰り返しました、また、部内にも相談し、bubbleで実現できる機能とユーザーが一番使いたいと思うタイミング、その時に必要な情報とは何かを話し合いました。

UI構成の改善案を話し合った際のホワイトボードの様子

具体的に改善した内容は、以下の点です。

  • ログインしてすぐ、「子どもの特性」が見えるUIに変更
  • 「送迎」の機能を目立たせる
  • そのほかの関係機関の基本情報は階層を全て下げる
改善後のUI。「特性により困りやすい場面」と、「周りができる工夫」に絞って表示。

いよいよプロトタイプを持って、最後のヒアリングへ

構成を固めて1ヶ月半の間にデザインと開発を進め、いよいよ最終ヒアリングの日がやってきました。サービス名は「piccichapp(ピッチチャップ)」です。童謡「あめふり」の「ピッチピッチチャップチャップランランラン」の歌詞から引用し、子どもたちが雨でも晴れでも毎日を楽しく過ごすことができるようなサービスになるようにという想いを込めました。

サービス「piccichapp(ピッチチャップ)」が生まれた背景

12の学校や通所施設など連携機関からのヒアリング内容をまとめると、「サービス導入に対して肯定的な機関30%」という目標を超える64%が導入に肯定的という結果になりました。

印象的だったことは、GIGAスクール構想による学校へのiPadの導入などICT化が進んでいる点です。業務効率を上げるためデバイスを駆使する校長先生や、療育の指導記録は全てPCのサービス上で行っている療育施設がありました。情報のやりとりをデジタル化すること対して、精神的なハードルが想像以上に低いように感じました。

担当者へのヒアリングの様子

ヒアリングに同席いただいた、支援者からのコメントをご紹介します。
「このサービスが導入されれば、そういった事象も減るのではないか。また、子どもたちが通所施設でどんなことに取り組んでいるのかの理解が深まり、それを連携機関や保護者と共有できることで、よりいい支援に繋げられる。実用化を待っています。」

好意的な声をいただいた一方で、「情報がかなりセンシティブなので、その情報がデジタル化されることへのメンタル的なハードルがあるのでは?」「そもそも療育への理解が深まっていないこともあり、なかなか好意的に共有しましょうとは一筋縄ではいかない。」という意見もありました。

超えなければいけないハードルはまだまだありますが、サービスの実用化に向けて、引き続き実装を進めていけるという感触を得られました。

さいごに

今回のサービスの実装を通して学んだことは、「サービスをログアウトしたあとの行動」をよりよくできるかが、UI・UXデザインの役割だという点でした。そのためには、ユーザーと時間をかけてコミュニケーションを取り、否定的な意見も含めて改善する中で信頼関係を築き、使えるデザイン、使えるサービスへと向かうことが重要だと痛感しました。

また、デザイナーという職業に求められている役割を、もっと広義の意味で捉え直すきっかけになりました。今後も、少しでも地域の皆様がより良い景色を見ることができるように、引き続き研鑽していきたいと思います。

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