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各業界で活躍するIT部門のキーパーソンをラックの西本逸郎が訪ね、IT戦略やサイバーセキュリティの取り組みについてざっくばらんに、"深く広く"伺う対談企画「ラック西本 企業探訪」。今回は、ふくおかフィナンシャルグループ取締役執行役員でCIOの森川 康朗さんにご登場いただきます。第2回は、2016年に発生した熊本地震の際の対応を中心に伺いました。
毎日200人が被災地・熊本へ
西本 2016年の熊本地震では、ふくおかフィナンシャルグループ(以下、ふくおかFG)によるグループ行への支援が際立っていたと伺っています。詳しく教えてください。
森川 4月16日(土)未明に震度7の本震が発生したのを受け、急きょ、福岡銀行と親和銀行(長崎県佐世保市)からの応援要員を募りました。現地の被災状況から、週明けからの熊本銀行の営業が危ぶまれたためです。
翌日曜日の夕方までに、男女それぞれ100人、合計200人の応募がありました。18日(月)早朝に熊本入りして女性は窓口業務を、男性は炊き出しなどの震災支援活動に当たりました。その後も連日、約200人の行員を現地に派遣しました。
西本 200人をいくつかのグループに分けて順次派遣するのではなく、200人が毎日、熊本に向かうのですか。
森川 そうです。交通網は遮断されていますし、現地で宿泊することもできません。応援の行員たちは毎朝4時ごろに福岡と佐世保をそれぞれ出発し、午前8時ごろに熊本に到着した後、各支店に分かれて業務に当たります。そして夕方の5時、6時ごろからまた3、4時間かけてそれぞれの地元へ戻るのです。
同じ人に続けて行ってもらうわけにはいきませんから、200人ずつのグループを3つ作り、交代で派遣しました。この窓口応援は、ゴールデンウィーク明けまで約1カ月間、続けました。
西本 そんな大変な支援活動を1カ月も。災害時のグループ行支援については、以前から訓練を行っていたのでしょうか。
森川 ふくおかFG全体で緊急時行動マニュアルを制定し、災害対応のBCP訓練は行っていますし、東日本大震災を踏まえて、非常用電源用の燃料を確保する対策なども講じていました。しかし、これほどの規模の被災は正直、想定外でした。
震災といえば、東日本大震災の時には地震発生3カ月後の2011年6月から2年間、グループ3行の有志が被災地でボランティア活動に当たりました。毎月約30人が現地入りしており、全体では1,000人ほどが活動に携わったことになります。この時の経験が互助の気持ちを育み、ひいては熊本地震で被災したグループ行を全力支援することにつながったのだと思います。
西本 皆さんの強い使命感や結束力があったからこそ、組織だった支援が続けられたのですね。
森川 熊本地震では先行き不透明の状況だったにも関わらず、行員たちは皆よくぞ志願してくれたと思います。この人たちに万一ケガでもあったら、派遣を許可した役員として責任を取って辞任しなければならないだろうと覚悟していました。この時の経験によって、グループの一体感や3行の絆はさらに強くなりました。
当たり前のことが当たり前でなくなる
西本 熊本地震の支援活動で支障になったことは何でしょう。
森川 人と物資を運ぶための観光バスとトラックの手配です。当初、大手のバス・トラック業者から借りようとしたのですが、ことごとく断られました。応援要員は集まったのに運ぶ手段が確保できないわけですから、本当に困りました。
西本 被災地は危険地域だということで行ってくれないのですね。
森川 はい、乗務員の安全が確保できないというのが拒否の理由でした。そこで、営業担当役員が取引先の社長にお願いして、ようやく観光バスとトラックを調達することができました。
西本 災害時特有の問題と言えるでしょうね。
森川 「当たり前のことが当たり前でなくなる」ことを、大規模災害に直面して痛感しました。
業務の遂行に欠かせない人員の確保についても同様です。建物や支店端末といったハードは大丈夫でも、そこで働く行員・スタッフは自宅や通勤経路が被災すると出て来れません。また、窓口業務を担う女性の中にはお子さんの世話などで出勤したくてもできない人も多く、支店の運営は非常に難しい状況にありました。
西本 被災した自宅の片づけや家族の世話などが女性に偏りがちであることは、熊本地震に限らず、災害時によく指摘される問題です。
ところで、応援で入った方は、勝手の違う熊本銀行の仕事に最初は戸惑ったのではないでしょうか。
森川 そこはまったく支障ありません。ふくおかFGは「シングルプラットフォーム・マルチブランド」を導入していますから、福岡、熊本、親和3行の事務・システムはすべて同じなのです。
西本 シングルプラットフォーム・マルチブランドについて詳しく教えてください。
森川 経営統合に当たって導入した、ふくおかFG独自のビジネスモデルです。
地方銀行は長年にわたり、それぞれの地域に密着して営業を行ってきました。そこで、地域の皆さんに親しまれてきたブランド(銀行名)は残して営業を展開することにしました。一方、システムインフラやグループ会社の持つ専門機能は共通化し、経営企画や財務部門などはふくおかFGに集約しました。
目指したのは「高度な金融サービスの提供」と「事業運営の効率化」を同時に実現させることですが、熊本地震の経験によって、シングルプラットフォームは「災害時のBCP」としても有効に機能することが証明されました。
西本 当初から災害対応も視野に入れていたのですか。
森川 BCP目的で構築したわけではありませんが、災害時に有効だとの認識はありました。
3行は事務システムだけでなく、女性行員のユニフォームも同じデザインを採用しています。震災時、熊本銀行の窓口では、福岡、親和両行の行員も対応していたのですが、お客さまは別の銀行の行員が対応していたことに気付かなかったかもしれません。
緊急時に即座に動ける理由
西本 応援に入る人を緊急募集したのは土曜日でしたね。休日にも関わらず、大勢の人が即座に応じる組織力はどのようにして培われたのでしょう。
森川 ふくおかFGでは緊急対応への心構えができているのかもしれません。過去にシステム障害を起こしたことがありますが、その際、緊急時には全本部、全支店が一致協力して対応することの重要性を身にしみて経験していることが糧となっています。
西本 どういうことですか。
森川 例えば、親和銀行の事務・システム統合を進めていた最中に、システム運用を委託しているITベンダーが起こした大規模なシステム障害があります。システムの委託者責任は当然我々にありますし、お客さまには多大なご迷惑をお掛けしましたが、不幸中の幸いだったのは、シルバーウイークの最中で5連休だったことです。この大型連休の最終日になんとか回復させることができました。
最近では、2016年11月にJR博多駅近くで大規模な道路陥没事故が発生しましたが、その際、ふくおかFGも事故に巻き込まれて複数設置していた地中のネットワーク回線が切断され、福岡、熊本、親和3行の全店舗で入出金や振り込みなどの窓口業務ができなくなりました。この時も、電力系通信会社の全面的な協力を得て翌日には全面復旧させました。
西本 博多駅前の道路陥没事故はまだ記憶に新しいですね。ラックの福岡オフィスも現場のすぐそばにあり、心配しながら事態を注視していました。一週間で道路陥没の復旧を遂げたことは国内外で大きな話題となりましたが、ふくおかFGの対応も実に迅速だったのですね。
森川 こうした経験を重ねていますから、緊急時には支店長は本部の指示がなくても「即座に何をしないといけないか」「どのように動くべきか」が分かっているのです。
西本 実践に勝るものはありませんね。ラックも、お客様のセキュリティ事案対応を支援する緊急対応サービスで、極めて厳しい場面に立ち会う経験を重ねていますが、そうした極限状況から学ぶことは本当に多いと日々実感しています。
【対談:ラック西本 企業探訪】強いリーダーシップで変革を推進 - 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ 編
プロフィール
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
取締役執行役員、CIO
森川 康朗(もりかわ やすあき)
1981年福岡銀行入行。事務、融資第二、総合企画部長、取締役専務執行役員を経て、福岡銀行副頭取兼ふくおかFG取締役執行役員CIO。
現在、事務、IT及び十八・親和銀行の事務システム統合プロジェクトを担当。
株式会社ラック
代表取締役社長
西本 逸郎(にしもと いつろう)
1986年ラック入社。2000年にセキュリティ事業に転じ、日本最大級のセキュリティ監視センター「JSOC®」の構築と立ち上げを行う。様々な企業・団体における啓発活動や人材育成などにも携わり、セキュリティ業界の発展に尽力。
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