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各業界で活躍するIT部門のキーパーソンをラックの西本逸郎が訪ね、IT戦略やサイバーセキュリティの取り組みについてざっくばらんに、"深く広く"伺う対談企画「ラック西本 企業探訪」。今回は、ふくおかフィナンシャルグループ取締役執行役員でCIOの森川 康朗さんにご登場いただきます。銀行再編に伴う事務・システム統合プロジェクトからグループ行が被災した熊本震災での対応、デジタル戦略にかける思いまでを伺いました。
組合委員長時代の経験が生きる
西本 森川さんは私の高校の先輩ですが、お仕事について詳しく伺うのは今回が初めてです。銀行員として40年に及ぶキャリアをお持ちの森川さんは、主にどういった部門を歩んでいらっしゃったのでしょう。
森川 福岡銀行に入って支店勤務を計5年間経験した以外は、本部勤務が長いです。営業企画部、総合企画部を経て、事務統括部長、融資第二部長、総合企画部長を務めました。いちばん長いのは総合企画部門で、トータル10年ほど在籍しています。
西本 ずいぶん幅広く経験されているのですね。ITと関わるようになったのはいつごろからですか。
森川 本格的にITと関わったのは、ふくおかフィナンシャルグループ(以下、ふくおかFG)が熊本銀行、親和銀行(長崎県佐世保市)と経営統合した約10年前です。事務統括部長として両行との事務・システム統合に携わった際に、IT部門と密接に連携して対応しました。
私は、(福岡銀行で)「初めて」の役目を任じられることが多かったのですが、熊本銀行や親和銀行との事務・システム統合でも、初の大規模プロジェクトを現場責任者として運営し、統合を成し遂げました。私が銀行員として成長を実感した仕事の一つです。
西本 その一大プロジェクトを成功に導いた原動力はなんだったのでしょう。
森川 若いころに従業員組合の委員長として数千人の組織を運営した経験です。異なる銀行の事務部門担当者を取りまとめ、支店長を巻き込んで営業店の研修を推進することができたのも、当時の経験が生きたと思います。
西本 さまざまな立場の人たちを束ねることで培われたマネジメント力、これが森川さんの強みの一つなのですね。「若いときの苦労は買ってでもせよ」ということわざを思い出します。
森川 ITとの関わりに話を戻しますと、経営企画(総合企画)部長時代にはIT戦略も担当していましたので、次期基幹系システムの更改やITガバナンスの確立などに、IT部門と一緒に取り組みました。
西本 そして2014年には、ふくおかFGのCIO に就任されました。
森川 はい、IT部門と事務部門の全般を担当するとともに、昨年(2019年)4月に経営統合した十八銀行(長崎市)との事務・システム統合プロジェクトの責任者を務めています。
過去2回の統合との違い
西本 今回の十八銀行との事務・システム統合と、過去2回(1回目は熊本銀行、2回目は親和銀行)とで違いはありますか。
森川 事務・システム統合の大きな流れは理解していますし、当時の担当者も多く残っています。ただ、過去2回は「経営統合」による事務・システム統合だったのに対し、今回は「銀行合併」に伴うもので、初めての経験となります。
西本 銀行合併に伴うものだと、具体的にどういう対応が必要になるのでしょう。
森川 今年(2020年)10月の銀行合併から2021年1月のシステム統合までの3カ月間は、「1銀行2システム」となりますから、対応するブリッジシステムと特殊事務を構築しなくてはなりません。また、合併相手である親和銀行と、人事制度や融資権限などすべてを同一にした上でシステム統合する必要があります。
西本 検討すべき課題が多岐にわたるのですね。事務・システム統合の難しさはどういう点にありますか。
森川 お客さまへの影響が広範囲に及ぶことがまず挙げられます。長崎県内の2行、つまり十八銀行と親和銀行の合併の場合は、100万人近いお客さまに通帳や口座番号、店番号を変更していただいたり、商品の切り替えをお願いしたりすることになります。
西本 店頭ではお客様への説明に追われそうですね。でも、本部勤務の方は直接的な関わりは少ないように思えます。
森川 いえ、本部の行員にも大いに関係があります。住宅ローンの金利を入力するシステムがありますが、事務が変更になると入力手順も変わります。万一、手順を間違えてしまうと、何十万人もの住宅ローン利用者に間違った金利が適用される恐れがあります。
事務・システム統合というと、「ごく一部の担当部門だけの問題」と考える人が多いのですが、そうではなく、全行員が関わる必要があります。経営企画部が先頭に立って指揮しているのも、経営の再重要課題だと認識しているからです。
この統合を成功させるには、頭取はじめ役員の強い意志と関与がないといけません。支店ならば支店長が本気になり、営業推進より何より、新しい事務手順の習得を徹底させなければなりません。
「泣いてもさせるしかない」理由
西本 とはいえ、人は変化を嫌う生き物で、それまでのやり方に執着しがちです。経営層の強い意思をどうやって伝え、行員の皆さんの意識を変えてきたのでしょう。
森川 そこは泣いてもさせるしかありません。
西本 えっ、泣いてもですか?
森川 泣いても、です。昨年まで2年間、親和銀行の副頭取を兼務していましたが、営業店を訪問した際、ある女性行員から「10年前は泣きながら新しい事務の勉強をしていました」と言われました。
10年前というのは、親和銀行の事務・システム統合に関わっていた時で、女性行員はみな遅くまで残って新しいオペレーションや事務取扱の勉強をしていました。
西本 日中は通常業務をこなし、その後に残業して勉強するのですね。
森川 はい。平日夜だけでなく、土曜日もほとんどつぶれてしまいます。新しいシステムを使った「立ち上げ」から「締め上げ」(その日の現金勘定を精査すること)までのロールプレーイングは、お客さまのいない休みの日でないとできませんから。
辛かったと思います。でも、やむを得ないんですよね。システムが完成しても、オペレーションや事務を担う行員がしっかり対応できなければお客さまに迷惑をかけることになりますから。ただ、厳しく対応しましたが、行員のケアは都度しっかりやりました。
西本 経営側の並々ならぬ覚悟のほどが伝わってきます。
森川 事務は銀行の文化そのものです。長年にわたり脈々と行われてきたことが事務に集約されていますから、変えるのは大抵のことではありません。
西本 さぞかし抵抗が大きかったことでしょう。
森川 新事務の定着がスムーズに進んだのは熊本銀行の方でした。熊本銀行ではそれまで、基本となる事務取り扱いを決め、それ以外は営業店の裁量に任されている部分がありました。営業店ごとに事務のやり方が違っていたこともあったようですから、結果として変化に順応しやすかったのです。
これに対し、私の出身行である福岡銀行では、事細かに事務手順が決められていた上に、分からない場合は必ず本部に問い合わせることになっていました。親和銀行も同様です。長年にわたって順守してきた事務のやり方を、経営統合に伴って全面的に切り替えなければなりませんでしたから、親和銀行の行員は本当に大変でした。
10年前の親和銀行と同じように、十八銀行でも明日(編集注:対談は2020年1月の金曜日に実施した)からロールプレーイングに取り組みます。
西本 文化の違う組織が一緒になる難しさは、3社が一緒になって誕生したラックもひと事ではありません。お客さま視点を徹底して貫く経営側の真剣さと、それに応えるグループ行の皆さんの必死さには大いに学ぶところがあります。
【対談:ラック西本 企業探訪】強いリーダーシップで変革を推進 - 株式会社ふくおかフィナンシャルグループ 編
プロフィール
株式会社ふくおかフィナンシャルグループ
取締役執行役員、CIO
森川 康朗(もりかわ やすあき)
1981年福岡銀行入行。事務、融資第二、総合企画部長、取締役専務執行役員を経て、福岡銀行副頭取兼ふくおかFG取締役執行役員CIO。
現在、事務、IT及び十八・親和銀行の事務システム統合プロジェクトを担当。
株式会社ラック
代表取締役社長
西本 逸郎(にしもと いつろう)
1986年ラック入社。2000年にセキュリティ事業に転じ、日本最大級のセキュリティ監視センター「JSOC®」の構築と立ち上げを行う。様々な企業・団体における啓発活動や人材育成などにも携わり、セキュリティ業界の発展に尽力。
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