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「一つのシステム部門」で総合力高める
西本:日清食品グループさんには、情報システム子会社はないのですか。
喜多羅:以前はありました。2008年に持株会社制へと移行した際に「日清食品ビジネスサポート」という機能子会社を作り、経理や総務などとともに情報システムのサポート業務を移管したのです。
システム子会社を持つ会社は通常、本社にITの企画部門があるものですが、当社の場合はそれがありませんでした。そのため、基幹システムを入れ替えるに当たって旗振り役がいない事態に直面することになりました。
当初は、業務改革の担当者がベンダーと話を進めていました。しかしながら、大規模プロジェクトの管理をやったことがないものですからプロジェクトがどんどん膨らみ、完成のめどがたたなくなったことから、いったん中断せざるを得ませんでした。その後、ホールディングスに情報企画部を作ったのは、プロジェクトは本来、事業や業務内容を理解している人間が全体のガバナンスを効かせながら進めるべきだという反省からです。
西本:ちょうどそのころに転職されたのですね。
喜多羅:私がその企画部門の最初の社員のようなものです。ホールディングスに企画部門ができると、今度はホールディングスと機能子会社のすみ分けはどうするのかという議論が持ち上がりました。
私はもともと、システム部門は一体化すべきだという信念があり、CIOとして入社したときからシステム部門、業務改革部門、システム子会社の全員を集めては「一つのシステム部門だ」と話していました。それで最終的に、機能子会社を解消してホールディングスに統合しました。
西本:一つのシステム部門という発想は外資系企業にいらっしゃったからでしょうか。日本の会社だとなかなかそうはいきません。
喜多羅:日本だと、機能子会社にいるほうが社員もむしろハッピーだという考えがありますよね。社長もいますし、課長、部長と社内でキャリアアップすることができますから。でも私は、同じ釜の飯を食いながらこっちは企画サイド、あっちは実行部隊と分けることにどうしても納得がいかなかったんです。
人間にはそれぞれ強み、弱みがありますよね。私自身できないことだらけで、何かをするときはいろんな人から話を聞きます。そういうときに「自分はこう思う」と臆せずに言えるフラットな組織にしたかったんです。きれいごとではなく、組織は総合力で闘っていかなくてはなりませんから。
西本:一体化の実現までは相当な困難を伴ったのではないかと思いますが、組織編成の談判はどのように進めたのでしょう?
喜多羅:当然「なんのために組織を分けたのか」「コストはどうするのか」といった意見が出てきますので、それを総括するまでには紆余曲折がありました。
しかし、今の時代にITを考えるにはコスト削減の観点だけでなく、イノベーションや業務への貢献度といった視点が欠かせません。私が講演などで自分の経験を話すのも、自社の事例を見せることで他社の起爆剤になれればとの思いがあるからです。
匠の世界とインダストリー4.0と
西本:食品業界では需要と製造・流通はほぼリアルタイムで連動しているように思うのですが、ドイツなどの提唱する「インダストリー4.0」レベルをすでに実現しているということでしょうか。
喜多羅:製造についてはデータですべてが管理できるわけではありません。麺の場合は天候や湿度によって粉と練り水の配分を変えるなど、まだまだ経験値に頼らざるをえません。データ化は試みていますが結構難しく、インダストリー4.0とは対極の、匠の世界です。
ただ、全体のマネジメントはインダストリー4.0のアプローチで進めていく必要があります。例えば、物流費です。インスタントラーメンの場合、体積の割に重量が少なく、空気を運んでいるようなものですから、30トントラックでもすぐにいっぱいになります。全体最適を考え、どうすれば物流コストが一番下がるかを常に検証していかなくてはなりません。
西本:物流と製造のバランスを最適設計できればすごいが、日本にはそれができる人はほとんどいないと聞いたことがあります。物流など、他社への委託を検討することはないのでしょうか。
徹底した内製化が強み
喜多羅:当社には、本質を理解しさえすれば自社でやったほうが絶対に安いという信念があります。具材や粉末スープ、紙カップなど専門業者に任せるのが普通ですが、すべての工程や作り方を理解して突き詰めれば絶対に安くできるんです。
このユニークなカルチャーが当社の強みでもあるのですが、それゆえによく「システムはなぜ外部のものを使っているのか」と聞かれます(笑)。しかし、すべて自社で内製できるかと言えばそれは違います。そこはうまく切り分けて説明しなければなりません。
取捨選択により、「餅は餅屋」の判断も
喜多羅:競争優位の部分はよそには絶対に頼めません。特に、ものづくり関わる部分は石にかじりついてでも内製で極めていかなくてはなりません。ただ、当社が世の中のベストプラクティス(最良事例)ではないものについては取捨選択があってもいいと考えています。
社内のシステム部門がやるべき一番の仕事は、業務を理解してシステムやソリューションとつなげることです。これは外部のコンサル業者にはできません。麺の原価を下げるために現場がどれだけ苦労しているか、そういった肌感覚があるのはわれわれだけだからです。ここは絶対に手放しません。
しかし、必ずしも世の中のトップである必要がない部分は外部に任せたほうがいいですよね。人員は限られているのですから、餅は餅屋に任せるべき。そうすると社内からは当然、コストは大丈夫かと心配されます。ベンダーさんからはかなり恨みを買っているでしょうが、コストをぎりぎりと詰めるのが社内のシステム部門の仕事です。
西本:そのコストはやはり、カップヌードル1食当たりいくらと算出されるのでしょうか。
喜多羅:全部のコストが展開されます(笑)。われわれの部門のコストが最終的に原価にどれぐらい乗っているか、非常にはっきりと言われます。
トレーサビリティが最大のセキュリティ
西本:セキュリティはどう担保されているでしょうか。
喜多羅:食品業界としては、モノの流れをきちんと把握し、お客さまに対して食の安全性を確保することが最大のセキュリティです。
お客さまから問い合わせを受けると、商品に印字されている賞味期限や製造工場に関する情報を教えてもらいます。その情報を元に、それぞれの具材がどこで調達・製造され、どう検査されて、いつ、どこの工場で使用されたのか、すぐに答えられなければなりません。全経路を追跡できるようにするトレーサビリティが当社のビジネスを守るセキュリティです。
また、工場にはありとあらゆる場所に品質保証カメラを設置しています。これは、従業員の行動を監視するためではなく、商品に何らかの問題が生じた際に、製造工程における問題がなかったかどうかを後から確認するためのものです。まじめに仕事をしている従業員が濡れ衣を着せられることがあってはならず、従業員を守る仕組みとして必要です。
西本:社内の情報セキュリティでもまったく同じことが言えます。会社は社員を監視しているのかと言われることがありますが、本来は社員と事業を守る意味合いが強いということですよね。食のお仕事を突き詰めている会社は、怖さを知っていると思います。
喜多羅:食品は人々の生命の根源を支えるものですから、食の安全性は何があっても担保していかなければなりません。
日清食品HD・喜多羅CIO × ラック社長・西本 対談(全3回)
プロフィール
日清食品ホールディングス株式会社
執行役員・CIO
喜多羅 滋夫(きたら しげお)
P&Gとフィリップモリスにて20年余りIT部門に従事した後、
2013年日清食品ホールディングス株式会社にCIOとして入社。
グローバル化と標準化を軸に、グループ情報基盤の改革を推進中。
株式会社ラック
代表取締役社長
西本 逸郎(にしもと いつろう)
1986年ラック入社。2000年にセキュリティ事業に転じ、日本最大級のセキュリティ監視センター「JSOC®」の構築と立ち上げを行う。様々な企業・団体における啓発活動や人材育成などにも携わり、セキュリティ業界の発展に尽力。
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