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ラックの西本逸郎が各業界で活躍するIT部門のキーマンを訪ね、IT戦略やサイバーセキュリティの取り組みについてざっくばらんに、"深く広く"うかがう対談企画「ラック西本 企業探訪」。両者の経験や対談からの学びを同様の課題を持つ読者の皆さまと共有します。
グローバル企業から日本企業への転進
西本:本日は、日清食品ホールディングスのCIO喜多羅 滋夫氏をお訪ねしました。対談場所は同社の株価連動型社内食堂「KABUTERIA」(カブテリア)です。
日清食品グループといえばユニークな広告で有名ですが、IT戦略も非常に先進的だとうかがっています。IT戦略の根底にあるお考えや、グローバル展開を進める上でのサイバーセキュリティの課題などを聞かせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
喜多羅:私は大学卒業後にP&Gに入り、次に移ったフィリップモリスではIT部門長を務めました。日本ではこれ以上のポストがなく、次のキャリアを模索していたときに、日清食品ホールディングスがCIOを探していると聞いたのです。
当時の日本は「失われた10年」が「失われた20年」になり、閉塞感に満ちていました。そうした時代背景もあり、次は外資系ではなく日本企業で、従来とは異なる立ち位置で挑戦するべきではないかと考えていたときでした。
西本:それはご縁でしたね。
喜多羅:それまでは、自分が食品会社で仕事をするとは思ってもいませんでした。ただ、日清食品グループがこれからグローバル展開を本格化しようとする中で、自分自身がそれまでいわゆるグローバルカンパニーに身を置き、マーケットやヘッドクォーターの側から事業を見てきたことが生かせるのではないかと考えるようになったのです。
西本:当社がセキュリティを始めたのは、バブル崩壊で会社が危機的状況になった1995年のことです。会社設立が1986年ですから、9年後に社内ベンチャーで新事業を立ち上げたことになります。
1998年ごろから事業として本格的に展開することになり、「西本、異動しろ」と言われましたが、セキュリティは人が一生懸命作ったものにケチをつける面もある仕事です。私の好きなものづくりとはまったく逆ですから、最初は本当に嫌でしたね(笑)。
しかし2000年ごろから、少数の領域で戦わなければ人生つまらないな、常識を破壊しなければおもしろくないなと思うようになりました。それから17年間、私なりのセキュリティのアプローチをすることができたのもまたご縁でした。
中高年世代に思い入れ強い食べ物
西本:日本はものづくりの国ですが、衣食住、とりわけ食は御社の創業者理念「食足世平(しょくそくせへい)」に見られるように、すべての原点ですね。私は炭水化物が大好きで、最近はちょっと制限しなければならなくなっていますが(笑)、ミニキャンプなどにも御社のチキンラーメンを必ず持って行くんですよ。
喜多羅:当社に入って改めて驚いたのですが、30歳前後から上の世代の方は、皆それぞれに当社の商品に関するエピソードを持っています。口々にカップヌードルやチキンラーメンについて語ってくれるんです。
「学生時代に山へ登ったとき、すごくおなかがすいてチキンラーメンをそのままぼりぼりと食べた」とか「寒い日に仲間がコンビニでカップヌードルとチキンラーメンを買ってきて、その2つを5人で分け合った。むちゃくちゃおいしかった」とか。これほど思い入れの強い食品は他になかなかないのではないでしょうか。
瞬間爆発的な需要にどう対応するか
西本:本当にそうですね。
ところで、B to Cのビジネスでは、消費者の需要の変化は本当に動きが速いですよね。例えは悪いですが、紙を燃やすように、ぱっと燃えたかと思うとすっと消える。いつも薪をくべていなければならないから大変でしょう。
喜多羅:昨今は特に速いですね。コミュニケーションのスタイルが変わると火の起き方も強く、消えるのも瞬間的です。
よく例に出す「カップヌードル トムヤムクンヌードル」の場合、発売した途端にものすごい勢いで売れたため、市場への供給が追いつかなくなり一旦販売を休止せざるを得ませんでした。生産体制を整え、十分に作りだめしてから販売を再開したのですが、それでも口コミの勢いがすごくて。
ツイッターで「あの店で売っているのを見つけたっ!」というつぶやきが大量にリツイートされて爆発的にデマンド(需要)が起きたんです。
西本:当社が支援しているあるECサイトでは、注文が集中するのは一年で数日だけです。クラウドがない時代、担当者は、その数日のためにサーバーをどのくらい準備するかなどで非常に苦労していました。
日清食品グループさんの場合はさぞパフォーマンス・マネジメントも大変だと思いますが、プラットフォームは何を使用されているのですか?
喜多羅:オンラインサイトは、キャパシティ(容量)やスケーラビリティ(拡張性)を考えてクラウドサービスのAWSを使っています。実はECサイトのリニューアル時(2016年9月)に、「生カップヌードルを先着10,000名様にプレゼント」というキャンペーンを行ったのですが、ネットメディアで大きく取り上げられたこともありトラフィック(通信量)が尋常でない事態になりまして。
クラウドにしていて本当に良かったと思いました。アーキテクチャー(基本設計)さえしっかりしておけば、タイムラグはあっても量的な対応は可能ですから。以前ならサイトをいったん閉鎖し、需要の勢いが失われた後に再開することになっていたでしょう。
大切なお客さまの動向を知る
西本:根強いファンがインフルエンサーとなっているのでしょうね。日清食品さんのオンラインストアを見ると、失礼ながら「誰が買うんだ?」というような商品もあります。それだけそのファンの人たちを大事にしていることが分かります。
喜多羅:全体からするとECサイトの売り上げは微々たるものですが、ECサイトを持っていること自体に意味があると考えています。直接お客さまと会話ができ、動きも見ることができるのがECサイトの良いところです。新商品を出したときにどのくらいの「引き」があるかなど、マーケティングデータとしての活用も試みています。
西本:今はツイッターやインスタグラムなどから、訪問者の動向がリアルに読み取れる時代ですね。当社の子会社にジャパンカレントというデータ分析をする会社があり、インスタグラムの投稿画像を分析するサービスを提供開始したのですが、おかげさまでかなりの問い合わせをいただいています。日清食品さんもデータ分析は相当にやっていらっしゃるのでしょうね。
喜多羅:ツイッター、インスタグラム、フェイスブックなどとマーケティング連動し、コミュニケーション施策がどう広がっているかをトラッキングしています。
「当たり前のことを当たり前に」が奏功
西本:今年8月下旬にはグーグルを発端とする大規模な通信障害が発生しましたが、影響はありませんでしたか?
喜多羅:グーグルの通信障害では、直接的な影響はなかったものの、自分自身が日々新しい技術に触れていないと肌感覚が養われず、異変に気付かないだろうなということを痛感しました。
グーグルの障害は、これまでの経験値では想定し得ないシナリオでしたね。オーバーフロー(通信量の増大)については日頃から議論の中で見ていますが、今回はオーバーフローとは正反対の出来事でした。想像力をどうたくましくし、「何か変だぞ」と感じ取って動くことができるか。言うのは簡単ですが実に難しい問題です。
余談ですが、こういうトラブルは私が外出しているときに起こることが多いんです(笑)。今年5月に起こったランサムウェアのワナクライ(WannaCry)の時も、COOから「世の中で話題になっているがどうなんだ」とメールが飛んできたのは空港で今まさに飛行機に乗ろうかという時でした(笑)。
西本:外出時が危ないのですね(笑)。
喜多羅:ワナクライの時、やっていてよかったと思ったのは古いOSを使用したPCを使っていなかったことです。国内で被害に遭ったのは、工場系のシステムで古いOSを使っているケースが多かったようです。業務のソフトウェアが動いているため、情報システム部門としてはOSの更新を徹底しにくく、目も届きにくい所です。工場には工場の事情があり業務上も必要だったのでしょうが、結果として問題が起こってしまえば、当たり前のことを当たり前にやることが大事だと気付かされます。
日清食品HD・喜多羅CIO × ラック社長・西本 対談(全3回)
プロフィール
日清食品ホールディングス株式会社
執行役員・CIO
喜多羅 滋夫(きたら しげお)
P&Gとフィリップモリスにて20年余りIT部門に従事した後、
2013年日清食品ホールディングス株式会社にCIOとして入社。
グローバル化と標準化を軸に、グループ情報基盤の改革を推進中。
株式会社ラック
代表取締役社長
西本 逸郎(にしもと いつろう)
1986年ラック入社。2000年にセキュリティ事業に転じ、日本最大級のセキュリティ監視センター「JSOC®」の構築と立ち上げを行う。様々な企業・団体における啓発活動や人材育成などにも携わり、セキュリティ業界の発展に尽力。
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