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「カスタマーストーリー」では、ラックとの関係の深いお客様やパートナーの事業活動を紹介いたします。
「日本の食文化が危うい!ITの力で漁業危機に立ち向かうプロフェッショナル」
海洋国家日本。日本の重要な海洋資源の中でも、最も身近な海洋水産資源が危ぶまれているという。温暖化による魚類の生息状況の変化、国際的な漁獲制限、そして後継者問題などが原因としてあげられている。
この大きな問題に対して、ITを活用したモノ造りを武器に、地方自治体や研究機関と共に日本と食文化の維持に取り組むのが、株式会社 環境シミュレーション研究所(以下、ESL)です。
埼玉で事業を展開するESL
水産業は今、危機的状況です。
そう語るのは、埼玉県川越市で事業を営むESLの小平佳延社長です。
ESLは、海洋水産資源の地球規模的な管理や海洋環境の保全を、ITを活用して推進することを目指して設立されました。この理念を体現する事業は、海の様々な情報を提供する「海洋環境情報配信事業」、海の地図情報を制作して提供する「デジタル海底地形図事業」、そして海洋空間データであるGIS(Geographic Information System)を提供する「地理情報システム事業」という3つから構成されています。
ESLの顧客は地方自治体や海洋に関する研究機関が多く、公共性の高い活動の支援を行いながら、デジタル海底地形図事業で制作した地図データを、釣り人向けの地図アプリケーション等に提供しています。
ESL創業当時から海洋版のGIS開発に取り組みましたが、簡単なことではありませんでした。陸上であれば国土地理院等が提供している地理データセットがありますが、海洋の場合にはこういった情報はほとんど流通していません。そこで、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)の助成事業として共同海上保安庁などからベースになるデータセットを提供してもらい、そこに自治体の調査船や漁船などから得られるデータを独自に収集し等深線を加える活動を、20年以上続けています。
水産資源の今を知る取り組み
今ESLが注力している事業は、海洋水産資源調査です。日本近海での漁獲状況を収集し、ほぼリアルタイムに水揚げに関する情報を把握するためのものです。データを受け取った研究者は収集されたデータを分析し、水産資源管理に活かします。また、水揚げされた際の水深や水温等の情報をそろえて記録することにより、漁業関係者へ安定操業のための情報をフィードバックすることができます。
これらの情報は、ESLが開発したGPSデータロガーにより収集、送信されます。漁船などに設置されている様々な機器より情報を受け取り、陸上の3G回線(FOMA)網を用いてデータをアップロードしていますので、ほぼリアルタイムに漁獲情報が収集されます。また、電波の届かない位置で操業している場合には、電波の範囲に入った際に送信される仕組みになっています。
しかし、漁獲の様々な情報が分析され、また漁業関係者間で共有された場合に、自分の漁獲のノウハウが明かされたり、自分しか知らない漁場が荒らされたりすることを良く思わない漁師もいるはずです。これは、農業のように自分の占有する畑があるわけではない水産業ならではの状況です。
小平社長は、このような状況がありながらも漁師の皆さんが協力してくれている点に関して次のように語ります。
水産庁の旗振りで地方自治体が漁船に協力を依頼するわけですが、実際には自治体の職員さんが足しげく通い、漁業関係者と絆を維持しているからこそ、協力してくれているのです。その貴重なデータを活用させていただけることに、感謝しています。
研究者の情熱と、それに応える漁師の人間関係が、これらの調査を実現しているといっても過言ではありません。
小平社長によると、国の研究や振興予算や従事者数は、農・林・水の順に割合が少なくなっているようです。また地上の産業とは異なり、海の中は目視できないなど活動の自由度が低いことにより、研究の困難さや研究費の少なさから研究者の減少などが懸念されているとのことです。
このままでは研究者と漁業関係者、どちらが先にいなくなるか。
と小平社長は厳しい表情で語ります。
日本の食文化を守ることにつながる戦い
小平社長は続けて、
日本の漁船漁業(沿岸漁業)は厳しいとみています。50、60代でも若手と言われる就業者分布で、厳しい仕事な割に報酬が少ないことなどから、自分の子供には継がせたくないと考える漁師さんも多く、継承問題も絡んでいるのです。
と言います。
昔は魚がたくさん取れていた時期があり、「にしん御殿」等という言葉も生まれましたが、今では状況は様変わりしています。このようになった原因は複数あり、国際的な乱獲で個体数が減ったことはもちろん、気象や気候の変動で生態が変わったこと、国際協定による漁獲制限などが原因とみられていますが、いずれにしても漁業関係者にとっては非常に厳しい状況です。
そのため、漁師と信頼関係を深めた研究者が、漁業の過程で生み出される貴重な漁獲データを提供してもらい、それを次の漁業、そして水産業の未来につなぐための分析をしているのです。この取り組みが進むことで、後継者へのノウハウの伝授は、これまでの師弟関係だけでなく研究者から行われる時代が来るかもしれません。
このようにESLは、海洋研究者が日本の食文化を守るための調査活動を支えているのです。
活動を陰で支えているTeamViewer IoT
漁獲に関連するデータは、ESLが開発したGPSデータロガーを漁船などに搭載して収集、送信しています。IoT機器として開発されたGPSデータロガーは、塩害などに対応できる強靭な設計がなされています。しかし、使用環境がバッテリーの安定しない船上であること、気温が極端に高い海上であることなど、誤動作を引き起こす要素が多くあります。また、機器を使用するのは漁師の方々であることからIT機器の扱いに慣れておらず、漁師の方自身によるトラブル対応は困難です。
ESLの山口晶大主任研究員は、
従来までは、GPSデータロガーのメンテナンスは、設置されている漁船に行き調整しなければならず、埼玉からの移動や作業時間に多くの時間が取られました。また、漁船は公共交通機関から離れた港にあるため移動の負担が大きかったのです。突然のメンテナンスのため、進めていた仕事を止めて出張をしなければならないなど、業務効率が悪くなっていました。
と振り返ります。
このように潜在的にメンテナンスが難しい環境のなか、折からの新型コロナウイルス感染症の影響で、出張など移動を伴う作業が大変行いにくくなりました。
そこでESLでは埼玉から遠隔地のGPSデータロガーをリモートメンテナンスすることを考えました。GPSデータロガーはLinuxベースのOSで組み込まれており、当初はSSHでの接続やクラウドサービスを利用した方法も検討しました。しかし、漁船が働いている海上は回線品質の問題で頻繁に通信が切断し、再接続の際にIPアドレスが変わってしまったり、通信速度も極端に遅くなったりすることがあり、これらの方式は対応できませんでした。
そこで、発想を変えて、GPSデータロガーにリモート接続してメンテナンスする方式を考えました。そこで、低帯域での接続性に定評があり、リモート操作のためのリソースを減らすことのできるTeamViewer IoTを検証しました。
このアイデアを考え実装した山口主任研究員は、
TeamViewerの接続性は素晴らしく、低帯域でも十分に操作ができ、携帯電話回線のように接続の度にIPアドレスが変化したとしても、TeamViewerの接続の仕組みであれば再接続時のIPアドレスを考慮しなくても良い点が決め手になりました。
と語りました。
ESLは、沿岸で働く400隻の漁船に対して、埼玉からTeamViewer IoTによるリモートメンテナンスを行いながら、日本の食文化を守る支援を行い続けています。彼らの取り組みが、日本の沿岸漁業の課題の解決に貢献されることを切に願っています。
より詳しく知るにはこちら
TeamViewer IoTはドイツのTeamViewer社が提供するIoTデバイス向け新プラットホームです。IoTはデバイスをインターネットに接続し、デバイス周辺のデータをネットワーク経由で集め、価値を生み出す技術です。TeamViewer IoTではインターネット接続するIoTデバイスを遠隔地からメンテナンスします。
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