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視覚障がいのエンジニアを育成するには

こんにちは、サイバー・グリッド・ジャパン 次世代セキュリティ技術研究所の外谷です。

この度、視覚障がい者支援総合センターより、チャレンジ賞を受賞しました。視覚障がいのある30歳代までの男女で、職業を持って自立しており、視覚障がい者の文化の向上と福祉の増進に寄与しようとしている人に贈られる賞です。自身の知識・技術や経験を元に、後進のキャリア形成や人材育成に貢献したことを評価いただきました。

視覚障がい者支援総合センター主催の授賞式会場での様子
授賞式会場での様子

この記事では、上記とも関連して、最近の我々の部署での取り組みについてご紹介させていただきます。

次世代セキュリティ技術研究所の視覚障がい者雇用

システム開発は視覚障がいがあっても成果を上げやすい分野だと思っています。システム開発には様々な分野やシステムが存在し、視覚に頼らない部分だけでも活躍できる範囲が広いと感じるためです。

視覚に頼る必要のない分野のシステム開発であれば、プログラムは文字データの集合であるため、スクリーンリーダー(画面の音声読み上げソフト)や点字ディスプレイ(画面表示内容を点字表示する機器)などを活用することで、大きなハンディキャップがなく仕事ができます。

次世代セキュリティ技術研究所では視覚障がいのあるエンジニアが私を含めて5名在籍し、システム開発を中心とした仕事をしています。物理的な作業や視覚的な開発などでは、視覚障がいのないメンバーと協力しつつ、日々研究開発を行っています。

私以外の視覚障がいのあるエンジニアは、全員ここ3年で新規に入社してくれたメンバーです。もともと開発を仕事としていた人もいますが、まったくの未経験で入社した人も2名います。また、昨年より視覚障がいのある学生を対象にした、インターンシップも実施しています。このインターンシップに参加してくれている学生の大半は、業務としてプログラムを書くのは初めてです。未経験で入社したメンバーや、インターンシップでの学生との関わりを通じて、うまくいったこと、うまくいかなかったことのノウハウを蓄積できました。

今回は、未経験のメンバーの受け入れや、インターンシップでどのようなアプローチを試みているか、一部ではありますがご紹介したいと思います。視覚障がいをお持ちの方や、視覚障がい者の受け入れを検討されている会社の方のご参考になれば幸いです。

次世代セキュリティ技術研究所での仕事

私たちは主に、サイバースレットインテリジェンス(CTI)にかかわる研究開発を行っています。具体的には、マルウェアやサイバー攻撃に関する情報を収集・蓄積し、その情報の横断検索や相関性の分析をしています。

研究開発にかかわるシステムには、シンプルな構造の小規模なものから、大規模システムまで様々あります。各種システム開発や、作成済みのシステム運用などを、各自のレベルに応じて対応しています。すでに開発経験のあるメンバーには、経験に応じてWeb APIの開発やデータベースを操作するようなシステムを開発してもらい、経験の浅いメンバーにはWebからの情報取得や加工・各種データの整理などを中心に担当しています。

私たちのシステムの大半がLinux環境のため、未経験のメンバーには、まずはコマンドラインでのコンピュータ操作に慣れてもらうところからスタートします。その後、プログラムの基本(pythonを使用することが多い)を学習してもらいます。業務で利用する簡単なプログラムを作ってもらいつつフィードバックしていく、というような流れで徐々に業務に必要なスキルを身に着けてもらっています。

視覚障がいがあっても、インターネットでの情報収集や資料を読みながらの学習は問題なく行えます。そのため、基本部分については各自で調べて学習しています。

ただし、システム全体の概念や関連性を表したものなど、情報が図や色で表現されていると一気に理解が困難になります。視覚的に理解することは難しいので、見える人に言葉やテキストで全体を丁寧に説明してもらいます。自分が理解できたら、他の視覚障がいの人へも言葉やテキストベースで説明するなど工夫しています。学習していく過程において、個別に適切な情報を提示し、理解した内容へのフィードバックが重要だと感じています。

2年前に未経験で入社し、同部に配属された前田さんは、最近では基本的なスクリプト開発がほぼ一人で作業できるようになりました。そして、今年新たに入社したメンバーは、今まさに学習を積み重ねながら、簡単な部分から業務に取り組んでもらっています。今後戦力になってくれることを楽しみに期待しています。

視覚障がいのある学生を対象にした、オンライン・インターンシップ

昨年から視覚障がいのある学生向けに、インターンシップをオンラインで開催しています。

今年も同じようにオンラインにて5月に2週間開催しました。昨年の経験を生かしつつ、新たなテーマで開発を体験してもらいました。私たちの方でテーマを提示し、内容に沿ったプログラムの作成してもらいます。成果物のレビューなどを通じて、業務でプログラムを作成するということを経験してもらいました。

「Microsoft Teams」のビデオ通話機能を使ってコミュニケーションを取りました
「Microsoft Teams」のビデオ通話機能を使ってコミュニケーションを取りました

初めは自分で書いたコードを人に見せる経験が少ないため、変数名などコードの内容が分かりにくかったり、コメントが適切でなかったりします。このような課題に対して、第三者がメンテナンスしやすいコードをいかに効率的に開発するか、という部分を中心にアドバイスすることが多いです。学生の皆さんが優秀なおかげで、最終的には読みやすいコードを仕上げてくれました。

オンラインでのインターンシップについて、「視覚障がいの学生だから」というハンディキャップは特に存在しないと思っています。取り組んでもらいやすいテーマの選定はしていますが、こちらで提示した予見に基づくプログラムを作成してもらい、フィードバックしつつ完成度を高めていくという流れにおいて、障がいは関係ありません。ラックでの開発業務においても、大きなハンディキャップがないことと同じです。

インターンシップ中、視覚障がいのある学生に対して心掛けたことは、私たちの部署の視覚障がいのメンバーと情報交換できる時間を定期的に用意したことです。その中で、開発環境の話や学習の仕方などをアドバイスしました。学生が、自身と同じ障がいを持ちながらも活躍するメンバーと交流でき、将来の姿を想像してもらいやすい環境を提供した点で、私たちならではのインターンシップができたのではないかと思っています。

まとめ

今回ご紹介したように、視覚障がいがあっても業界経験が無くても、ラックで活躍することは可能です。様々な人材に対する育成ノウハウが現場に蓄積されており、のびのびと能力を発揮してもらいやすい環境だと感じています。さらに、業務初体験の学生に対するインターンシップにも取り組んでいるので、少しでも興味を持っていただけたら、ぜひ応募してみてください。未来のセキュリティ業界を背負う皆さんに会えることが楽しみです。

今後も、次世代セキュリティ技術研究所での取り組みをご紹介していきますので、お楽しみに。

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