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【対談:ラック西本 企業探訪】企業の根幹は人。ITはそれを支える - 株式会社コーセー 編(3/3)

各業界で活躍するIT部門のキーパーソンをラックの西本 逸郎が訪ね、IT戦略やサイバーセキュリティの取り組みについてざっくばらんに、"深く広く"伺う対談企画「ラック西本 企業探訪」。
今回は、商品開発や販売の現場も経験し、現在は自社のITの取り組みを積極的に対外発信されているコーセーの小椋 敦子さんにご登場いただきます。最終回となる3回目は、デジタルマーケティング施策とそこでのIT部門の役割について伺いました。

全社横断型のデータ分析基盤が必要だった理由

西本:御社は2017年4月に、全社横断型のデータ分析基盤「KOMPASコンパス(KOSÉ Marketing Platform for Advanced Strategy)」を構築されました。なぜデータ分析基盤が必要だったのでしょうか。

小椋:KOMPAS構築の目的は、社内で保有するすべてのデータをマーケティング施策に活用するためです。

それまでのデータ分析は、各部門の要請に応じて独自の分析ツールが導入されていました。複数の異なる分析ツールが乱立し、同じようなデータがいくつものシステムに点在していたのです。データが分散し、さらに複数の分析ツールが乱立してしまったことで、問題も発生しました。例えば、同じ抽出条件でデータを抽出して分析しても、分析ツールが異なるとそれぞれの抽出ロジックが異なるため違う分析結果が導き出されることが起きてしまったのです。

株式会社コーセー 執行役員 情報統括部長 小椋 敦子

こうした課題を解決すべく、社内のあらゆるデータ──出荷店舗の消化データやマスターデータなど──を1つに集約し、「すべてのデータはここにあります」という分析基盤の構築を実現しました。

西本:分析は各担当者が行うのですか。

小椋:はい。IT部門では個々のニーズに合わせて簡単に分析操作ができる仕組みを構築しました。例えば、単純な集計結果だけ確認できればよい場合には、帳票ボタン1つですぐに結果が表示されます。一方、複数のデータを横断的に掛け合わせて試行錯誤しながら検索・分析したい場合には、さまざまな条件で検索できる環境を整えました。

西本:すでに本稼働しているのですね。

小椋:2017年から本稼働しています。ただし、本稼働はゴールではなく、活用しながら常に良いものを目指して改善し続けています。現在は海外拠点のマスターデータも取り込み、グローバル規模での売り上げ実績も把握できる機能の開発に取り組んでいます。

また最近では、店舗の顧客情報と購買履歴を管理・分析し、お客さまへの直接アプローチを実現できるデジタルマーケティング基盤DMP(Data Management Platform)の仕組みも構築しました。こうしたデータや非構造化データを取り込みつつ、デジタルマーケティングアプローチを実現する基盤を構築したのです。KOMPASとあわせてコーセーにおけるデジタルマーケティングの基盤として今後も成長させていきたいと思います。

デジタルマーケティングの挑戦

西本:2018年4月にデジタルマーケティング事業部を設立したことが話題になりました。

小椋:デジタルマーケティング事業部設立の目的は、コーセーが持つすべてのブランドで、お客さまに直接リーチすることです。デジタルマーケティング事業部は、ブランドを横断してデジタルアプローチができるような組織構成になっています。

西本:デジタルマーケティング事業部設立の背景を教えてください。

小椋:これまでコーセーは、取引先さまとのBtoBビジネスが主でした。しかし、デジタルマーケティングによるアプローチが可能になったことで、ブランドに込めたわれわれの想いや誕生までのストーリーをお客さまに直接届けられるようになったのです。今後は、パーソナライズした情報の提供など、お客さまによりコミットした施策が打てると考えています。

西本:デジタルマーケティング事業部の中で、IT部門はどんな役割を担っているのでしょうか。

小椋:インフラ整備やセキュリティ、データの連携、システムの全体構成の構築といった部分を担当しています。デジタルマーケティングの分析に関する部分までは、IT部門の業務範囲として広げられていないのですが、「データ連携や基盤の整備」「データの統合と一元的な管理」は、われわれのミッションだと考えています。現在は(デジタルマーケティング事業部との)すみ分けをしながら、タッグを組んで施策を展開しています。

西本:各種データ分析基盤はクラウド上で運用されているのでしょうか。

小椋:はい。社内で運用管理していたオンプレミス環境にあるWebサーバなど、コンシューマー向けのシステムはすべてクラウドに移行しています。また分析基盤などの利用頻度増大に伴い、ハードウェアリソースを必要とするシステムもクラウドに移行しています。拡張性や構成を自由に変更できる柔軟性、別環境との接続性を考えてクラウドが最適だと判断しました。

西本:具体的にはどのようなシステムをクラウドで運用しているのですか。

小椋:大きく分けると「コンシューマー向けの各種システム(Webサイトやスマートフォンアプリケーション)」「店舗など外部からの利用が必要なシステム」「分析基盤などデータの増加や利用頻度によりハードウェアリソースの柔軟性を求めるシステム」です。

また、一部ではありますが、海外現地法人の基幹システムもクラウド上で管理しています。ただし、海外システムのクラウド移行はガバナンスの観点からも時間がかかると考えています。

西本:セキュリティの観点から見ると、海外で起きているインシデントは、海外の現地スタッフのオペレーションミスであることがほとんどです。

小椋:現地法人のミスを問題視するのではなく、ミスを防ぐためのシステム構築、ミスを補完するガバナンスが必要と考えます。ですから、ガバナンスとポリシーをきちんと策定し、クラウドで一括管理するという手法がいちばん効率的だと考えています。

データプライバシーの"最適解"を求めて

西本:デジタルマーケティングで課題となるのがデータの扱いです。御社ではデータオーナーをどのように決めているのでしょうか。

小椋:システムに格納されている個人情報に関しては、私が管理責任者です。ただし、個人情報はデジタルマーケティングの分析対象ではないので、特定の権限を持つ社員しかアクセスできないように管理しています。

株式会社ラック 代表取締役社長 西本 逸郎

西本:それらのデータ管理は分類して行っているのでしょうか。機密データには「製造データ」や顧客の「プライバシーデータ」があります。また、「営業的な機密データ」もありますよね。例えば、地域ごとのお肌の特性データや特定地域の購買傾向データなどは、「プライバシーデータではないが、企業として重要な機密データ」だと拝察するのですが、いかがでしょうか。

小椋:お客さまの傾向を分析する基データ(顧客情報)は、慎重に扱わなければなりません。匿名化して保管することはもちろんですが、匿名化したデータであってもどこまで分析してよいのかといった課題があります。

反面、そうしたデータを正しく分析することで、お客さまのニーズや傾向を正確に把握し、より良い商品やサービスを提供できるようにもなります。デジタルマーケティングを成功させる上で、データ分析という"武器"をどのように使うかは正解がありません。常に模索している状態です。

西本:もう1つ、データ分析で伺いたいのは、「BI(ビジネスインテリジェンス)ツールやAI(人工知能)にどこまで任せるか」といった点です。経営指標や営業情報などを分析できるBIツールやAIが導き出した分析結果をどこまで信じるのか、どういった仮説を立てて分析するのかといった"眼"はどのように養っていくのでしょうか。

小椋:仮説をきちんと立てられる人材は、時間をかけて自社で育成する必要があると考えています。今後データ活用が進めば進むほど、「その分析結果は本当に正しいのか」を見分けられる人材が必要になるでしょう。

AIはデータブロックの中から"最適解"を見つけることは得意ですが、誰も思いつかない"特異解"を見いだすことはできません。そして化粧品業界で求められる"解"は後者です。ですから、「いかに素晴らしい仮説を立てられるか」が重要になるのです。

西本:セキュリティの世界もまったく同じです。攻撃者は防御側の隙を突いてきます。過去のデータや傾向に依存したセキュリティ対策では歯が立たないんですね。防御する側は攻撃者の立場で「どうやったら防御を突破できるか」の仮説が立てられなければなりません。現状のAIはサイバー攻撃の分析には適していますが、攻撃者の"新しい発想"に対応できるのは、熟練したアナリストの"特異解"を見つけ出す能力です。


西本:最後に将来の展望を聞かせてください。

小椋:IT部門のメンバー全員がコーセーの経営に貢献できるようになることです。現在、私はIT部門を率いていますが、「メンバー全員が技術力を背景として誇りを持って仕事に邁進できること」が、私の最終目的です。

西本:ご自身の展望はいかがでしょう。

小椋:私自身も、これからの会社の発展に貢献できるように進化していきたいと考えています。私は自分が会社に貢献できる場であれば、 IT部門でなくても楽しく仕事ができると思っています。もちろん、トラブルが起きて乗り越えなくてはならない課題が出現することもあるでしょうが、マイナスの経験は学びのチャンスでもあります。

株式会社コーセー 執行役員 情報統括部長 小椋 敦子

西本:小椋さんは進化する達人だと思います。極めて短期間に成長できるご自分を実感され、喜びに変える。だからチャレンジングな状況や困難でも前向きに受け止めて立ち向かう。IT部門は御社の中でますます必要とされる存在になっていきますね。

小椋:ありがとうございます。部門長としてはIT部門のプレゼンスを高め、人員を増強し、業務の効率化を進めることにより一人ひとりの業務負荷を少しでも減らしてあげたいと願っています。

西本:最後に超現実的な要望をいただきました(笑)。本日はありがとうございました。

プロフィール

株式会社コーセー 執行役員 情報統括部長 小椋 敦子

株式会社コーセー
執行役員情報統括部長
小椋 敦子(おぐら あつこ)
1988年、研究所に研究員として入社。
翌年、全社の新規プロジェクトの立ち上げに参画。
出産後に同研究所・システム部門に異動し、2007年より現部門に移動。
2018年から執行役員情報統括部長として、情報統括業務を推進中。

株式会社ラック 代表取締役社長 西本 逸郎

株式会社ラック
代表取締役社長
西本 逸郎(にしもと いつろう)
1986年ラック入社。2000年にセキュリティ事業に転じ、日本最大級のセキュリティ監視センター「JSOC®」の構築と立ち上げを行う。様々な企業・団体における啓発活動や人材育成などにも携わり、セキュリティ業界の発展に尽力。

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