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各業界で活躍するIT部門のキーマンをラックの西本逸郎が訪ね、IT戦略やサイバーセキュリティの取り組みについてざっくばらんに、"深く広く"うかがう対談企画「ラック西本 企業探訪」。
今回は、ものづくり企業として常に新たなチャレンジを続ける清水建設株式会社を訪問しました。
新しいことに積極的に取り組む企業文化
西本:今回は、清水建設株式会社の本社(東京・中央区)に、情報システム部長の伊藤健司さんを訪ねています。スーパーゼネコンの一角を成す清水建設は、創業210余年の歴史に裏打ちされた堅実さと進取性を併せ持つグローバル企業で、ITを活用した取り組みでも定評があります。同社IT部門の立役者である伊藤さんに、これまでの取り組みとその狙いなどをとことんお伺いします。
伊藤さんは1957年生まれだそうですね。私は1958年ですからほぼ同世代です。
伊藤:1月生まれですので、2学年上ですね。還暦ももう迎えましたよ(笑)。
西本:マラソンがご趣味だとか。東京マラソンなどのフルマラソンにも出場されているとのことですが、どのくらいのタイムで走っていらっしゃるのですか。
伊藤:4時間と少しです。以前は4時間を切っていましたが、年を重ねるにつれてだんだん遅くなってきました。同じ世代のマラソン仲間は、タイムが出なくなると70キロ、100キロといったウルトラマラソンに移っています。昔は、長距離を走っている人は何を考えているのだろうと思っていましたが、いざ自分が始めてみると何も考えずに走っていますね(笑)。
西本:マラソンを始めたきっかけは何だったのですか?
伊藤:禁煙です。48歳のときにタバコをやめたら太りだしたのでこれはまずいと。レースに出ることを目標に始めたら、すっかりはまってしまいました。
西本:12年前ですね。私も13年ぐらい前に吸うのをやめたのですが、そうしたらとたんに・・・いやいや、もうやめておきましょう(笑)。
「ハイカラ」な職場環境に驚嘆
西本:実は私、1980年代後半に、越中島(同・江東区)にある御社の技術研究所に伺ったことがありまして、ソニーのワークステーション「NEWS」が採用されているのを見て「なんてハイカラなんだ!」と感心したことを覚えています。
伊藤:80年代だと私も越中島に勤務していました。情報システム部が技術研究所内にあって、メインフレームを運用していたりしました。ハイカラかどうかは分かりませんが(笑)、確かに清水建設には新しいものを好む風土があるかもしれません。日本で初めて、座席を決めない「フリーアドレス」を実験的に導入したのも当社の技術研究所でした。
西本:御社は障がい者スポーツ支援にも積極的に関わっていらっしゃいますよね。スポーツに限らず、障がい者の方の中にはすばらしい能力を持っている人が大勢います。障がい者雇用には当社も積極的に取り組んでおり、外谷渉という全盲のプログラマーを筆頭に活躍してもらっています。外谷は、今年2月には「サイバーセキュリティに関する総務大臣奨励賞」を受賞しました。
伊藤:清水建設では今、技術研究所で視覚障がい者の方向けのナビゲーションシステムを開発しています。先日、スマートフォンとビーコン、骨伝導を組み合わせて視覚障がい者の方に位置情報を伝え、災害時に避難経路を誘導するという実証実験を東京・日本橋室町地区の建物内で行ったばかりです。このシステムは実証実験を終了し、実運用に向けて準備をしています。将来的には、さらに機能を付加して視覚障がい者の方でも、様々なアクションができるようにしたいと考えています。
基本は相手の状況を踏まえたコミュニケーション
西本:実は私、今は右の耳が完全に聞こえません。こうして向かい合って話しているときはいいのですが、視界に入っていない所から突然音が聞こえるとびっくりします。
伊藤:実際に経験してみないと分からないことは多いものですよね。当社は研修の一環として「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という暗闇体験を取り入れていて、数人ずつグループになって完全に真っ暗闇の中で共同作業をするのですが、ブロックで何かを作るにしても「それ取って」の「それ」が通じないのです。見えない中、言葉だけで的確に情報を伝えることがいかに難しいか。同時に、日頃からのコミュニケーションの大切さも痛感させられます。
西本:コミュニケーションはビジネスの基本中の基本ですね。この研修はどういったきっかけで開始されたのでしょうか。
伊藤:当社の会長がダイバーシティを重視しており、弱者の状況を知ることで、自分がどう振る舞うべきか、気付きを得られると考えたことが大きいですね。
──いかに相手の立場に立てるかということですね。これはセキュリティにも通じるところがありそうです。
西本:セキュリティ企業として外せない原理原則はありますが、お客様の事情を踏まえることなく「それは一切まかりならん」というやり方では、お客様から「セキュリティ企業はいらない」と言われてしまいます。
伊藤:ラックのコンサルティングサービスを受け、耳に痛い指摘を頂くこともあるのですが、時に「うーん、それは分かっているんだけどな......」という場合もあります。セキュリティとはつまるところ、費用対効果、費用対リスクです。どこまでリスクを取るかは情報システム部門の仕事ですし、一般のユーザー、つまり社員からすると、セキュリティを厳しくすると使い勝手が悪くなるのも事実です。それをどこまでやるのか。ルールだけ厳しくして、何のためにやるのかが置いてけぼりになってはいけないと思います。
西本:ひとたび事件・事故が起きると再発防止策が求められますが、「何の」再発を防ぐのかを考えず、世間から求められているからと適当な防止策を出すだけで改悪になってしまうケースはよくあります。そんな杓子定規な対応は避けなければなりませんね。
【対談:ラック西本 企業探訪】創業210余年の企業に学ぶ先進的IT活用の理念と実践~清水建設編
プロフィール
清水建設株式会社
情報システム部長
伊藤 健司(いとう けんじ)
1982年入社。1990年から2000年代にかけて、システム環境が大きく変化する時代に、システム開発や社内情報基盤構築の実務者として従事。
2008年から情報システム部長として、全社の情報化施策を推進中。
株式会社ラック
代表取締役社長
西本 逸郎(にしもと いつろう)
1986年ラック入社。2000年にセキュリティ事業に転じ、日本最大級のセキュリティ監視センター「JSOC®」の構築と立ち上げを行う。様々な企業・団体における啓発活動や人材育成などにも携わり、セキュリティ業界の発展に尽力。
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