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株式会社ラック 自社事例 生成AI活用支援サービス

生成AIの活用で、株主総会の準備を大幅に効率化

2,100名を超える従業員が働くセキュリティ企業、株式会社ラック(以下、ラック)。毎年開催される定時株主総会は、会社の重要事項を決定し、株主からの意見を受ける重要な機会だ。しかし、その運営には膨大な準備が必要で、組織全体の負担が大きいのも事実だ。そこで、2024年6月に行われた株主総会においては、近年活用シーンが急拡大している生成AIを活用し、運営負担の軽減と円滑な進行を実現した。これらの取り組みをリードした、総務部の藤田と、AI技術部の青野に、生成AI導入の背景や具体的な実施内容を聞いた。

株式会社ラック 総務部 藤田 紗理
総務部
藤田 紗理
株式会社ラック AI技術部 青野 有華
AI技術部
青野 有華

幅広い総務業務の中での一大イベント「株主総会」

ラックは2,100名(連結)を超える社員が従事する企業だ。組織運営を支える総務部には約40名が所属しており、業務の中でも重要な取り組みの1つに株主総会の運営がある。毎年6月に開催される株主総会に向け、総務部では決算期終了後から当日までの約3か月間、総務部の藤田を含む約10名が集中的に対応している。

株主総会の準備と開催には膨大な作業を伴う。会場の手配・設営、発表内容の精査、招集通知の作成・発送、リハーサルといった準備作業に加え、会場案内や受付、議事録作成、議事進行のサポートといった当日の運営業務と、どれも慎重な対応が求められる。藤田は招集通知や決議通知といった書類作成を担当している。中でも、質疑応答用の想定問答集の作成は、全社的に幅広い分野に関連し、多岐にわたる調整が求められるため、準備に多大な労力がかかるという。

多くの企業が用意する想定問答集

ラックの株主には個人の株主も多く、株主総会では企業活動に関わる幅広い質問が予想される。この対応をスムーズに進めるため、社内の各部門を巻き込んで想定問答集を準備することが藤田の役割だ。

想定問答の作成は、総務がカテゴリと質問を想定し、各部門へ回答案の作成を依頼する。回答案が戻されると、内容の正確性や伝わりやすさを慎重にチェックし、体裁を整えていく。このプロセスで作成される想定問答は数百件に及び、さらに直近の事象にも回答できるよう準備するため、株主総会の直前まで対応が続く。株主総会では議題に関係する質問に限らず、企業活動に関わるあらゆる質問に対応する必要があるため、多くの労力をつぎ込み想定問答集を作成する。

「株主様の質問に対して、議長をはじめ取締役などの言葉で真摯に伝えていくことは、企業への信頼にも繋がるため、あらゆる想定問答を用意し回答者が正確な情報を速やかに回答できる状況に準備しておきたい」と藤田は言う。

株式会社ラック 総務部 藤田 紗理

しかし、当日の株主総会で質問される件数は多くはなく、さらに想定外の質問が寄せられるケースも少なくない。限られた時間の中で膨大な想定問答から探す手間も課題で、準備にかける作業負担と得られる効果のバランスには悩まされていた。同様の悩みは、経営陣や回答案を作成する各部門にも共通していた。

株主総会に生成AIを活用する

ラックは2023年6月より、社内に散らばる人材・ノウハウや資金などの経営資源を組織横断的に集約し活動する組織「GAI CoE(Generative AI Center of Excellence)」を立ち上げた。この取り組みは、全社員が生成AIを活用できる基盤を整備し、業務効率化や作業精度の向上を目指すものだ。藤田は業務への生成AI活用を模索していた中で、GAI CoEが作成した社内専用AI「LACGAI」のリリースに着目した。株主総会にLACGAIを活用することで時間短縮に繋げられるのではないかと考え、AI技術部の青野に相談した。

青野はGAI CoEの中核メンバーとして生成AIの知見を持つエンジニアだ。しかし、生成AIを特定業務に活用するには、業務内容を深く理解する必要がある。そこで、藤田と連携して株主総会の準備業務における課題を分析し、中でも負担の大きい質問対応に焦点を当て、生成AIの活用を目指した。

この取り組みについて、藤田は総務部や社長室、財務部など関連部門と協議を重ねたが、最初は懸念の声が上がった。「AIが誤った回答をした場合、その回答案を参照しながら説明することで説明義務違反となる」という慎重な意見も少なくなかった。しかし、プロトタイプとして開発された生成AIを試験運用した結果、一定基準を満たす回答のスピードと正確性が確認され、本開発がスタートした。

特定業務特化型こそ生成AIの出番

今回2つのパターンで想定問答の作成を補助する生成AIを活用した。1つは、ニュースリリースや最新の有価証券報告書など、ラックの公開情報から想定される質問と、それに対する回答案を生成するもの。もう1つは、AIによる新たな想定問答の作成に加え、株主総会の本番で想定される複雑な質問内容に対して、正確にかつ網羅的にひとまとめにして回答案を生成するもの。これらの生成内容を事前に精査し、実際の運用に耐えうる品質であることを検証した。

「生成AI活用の第一歩は、活用しやすいデータを使っている業務から取り組んでいくことが重要です。本取り組みでは、取り込む前の想定問答集はとても整理されていたので生成AIで活用しやすかったです」と青野は語る。

株式会社ラック AI技術部 青野 有華

株主からの質問に対して、想定問答のデータから関連する回答案を迅速かつ的確に生成するため、実装にあたってはRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を活用した。懸念されたハルシネーション(事実に基づかない情報から生成する)については、プロンプトエンジニアリングで軽減を図った。例えば、今年度の財務情報に関する質問に、別年度の財務情報を基にした回答案を返してくることがある。こうしたハルシネーションに対しては、年度を明示的に提示した上で、それを考慮して回答案を生成させるように指示するといった工夫をした。

プロンプトの調整やデータの追加を重ね、開発が完了したものを経営層と関係各所にデモンストレーションしたところ、的確な回答例が即座に提示された。その精度とスピードが高く評価され、株主総会でも問題なく利用できると確認できた。

高評価を得た、生成AIの業務活用の可能性

いよいよ株主総会の当日、藤田は会場の袖で株主質問に備えて待機していた。議長が株主への質問を求めたところ、複数の手が上がり質問が寄せられた。総務部門の担当者は、質問内容をプロンプト(AIに対してユーザーが入力する指示や質問)に置き換えて入力すると、的確な回答案が生成AIにより即座に導き出された。議長は回答案も参考にしながら自身の判断で丁寧に説明を行った。このような新たな取り組みの効果もあり、株主総会は終始スムーズに進行し幕を閉じた。

従来の株主総会では、膨大な想定質問から回答を手動で探し、適切な回答案を組み合わせて議長に伝える作業が必要だった。それに対し、今回の生成AIを活用した取り組みは、回答のスピードと精度の両面で満足できるものであった。想定問答集の作成にかかる膨大な準備時間を大幅に削減できたことも利点だ。さらに、当日の運営においても、生成AIの技術を取り入れたことで、株主からの質問対応に迅速かつ的確に応えられた点が、経営層からも評価された。

生成AI環境の継続的な開発と支援

今回の取り組みから、業務に特化させた生成AIの活用は有効だということが示された。しかし、これを全社的に広げるにはまだ課題も多いようで、青野は次のように語る。

「現在、社内で生成AIの活用を広めるため様々な取り組みをしていますが、『どう使っていいのかわからない』という声は多いです。そのため、まずは社員一人ひとりに自分の業務で実際に使ってもらい、活用イメージをつかんでもらうことが重要だと考えています。複雑なRAGやエージェントの構築に凝るのは、その次で十分です。まずはシンプルな仕組みを実装して、自分の業務に役立つ形で触れてもらうことが大事だと思っています」

株式会社ラック AI技術部 青野 有華

青野はさらに、今回の成功が一過性のスポット事例にならないよう、各部署で生成AIの活用を継続的に模索できる仕組みを作っている。また、「今回は特に藤田さんが生成AI活用に前向きだったおかげで、とてもスムーズに進みました。しかし、こうしたプロジェクトは現場の方々の協力なしでは成り立ちません。生成AIの効果を最大化するためにも、現場との連携や信頼関係を大事にしていきたいなと思っています」とコメントした。

実際に株主総会で生成AIを活用した藤田は、「株主総会では、円滑な進行と的確な回答が求められます。今後は、生成AIに取り込む情報の種類を増やし、より多様な質問に対応できるよう精度をさらに高めていきたいと考えています。同じような仕組みを、社外からの問い合わせ対応にも活用できれば便利ですね。文章だけでなく、音声データも取り込めるようにすれば、新たな可能性が広がるのではないかと思います」と想定問答の作成業務以外にも活用イメージを広げている。

株式会社ラック 総務部 藤田 紗理

総務には多岐にわたる業務があり、生成AIを活用できる余地は多く存在する。活用環境を提供する側も継続的に開発を進め、業務効率を大幅に向上させるために生成AIの活用を支援していく。

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