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セキュリティ診断を担当している木村雅弘です。

7月3日~7月7日の5日間、防衛省 陸上自衛隊幹部学校が実施している第14回総合安全保障セミナーに参加してきました。安全保障分野におけるサイバーセキュリティーの重要性が増したこともあり、ラックにもお声かけいただき、第9回から毎年1~2名が本セミナーに参加しています。今回は、本セミナーに参加した様子を簡単にご紹介します。

総合安全保障セミナーとは

産・学・官からの参加者約50名と、幹部学校に在籍する約100名の陸上自衛官が、12グループに分かれ、将来の日本の安全保障に関しての意見交換や討議するセミナーで、最終日には各グループが発表していきます。産・学・官からの参加者は基本的に敷地内の宿舎に泊まる合宿形式です。
討議のテーマは、「我が国の国家安全保障戦略及びその推進施策を構築せよ」というスケールの大きいものでした。 募集要項では、年齢は40歳以下が望ましいということでしたが、40歳オーバーの私も無事に受け入れていただけました。

陸上自衛隊幹部学校とは

陸上自衛隊幹部学校は陸上自衛隊の上級幹部を育成する陸上自衛隊の最高学府です。概ね10年程度の経験の持つ現役自衛官の方が2年間程在籍します。私はセミナーに参加して初めて知りましたが、陸上自衛隊の教育課程は充実しており、幹部学校の他に高等工科学校、幹部候補生学校、職種ごとの学校があるとのことです。
セミナーの会場には、「創造と挑戦」という幹部学校の理念が飾られています。参加前は、どちらかというと堅いイメージを想像していましたが、みなさん気さくで前向き、親切な方ばかりで居心地の良い雰囲気。良い意味で想像が裏切られました。

幹部学校の理念
会場に飾られている幹部学校の理念「創造と挑戦」

活発なグループ討議

私が配属されたグループは、自衛官から9名と産・学・官からは私含めた3名の計12名でした。
討議にあたって2つのルールがありました。1つ目は、討議に使う情報やデータ等の資料はインターネット等に公開されているオープンソースのみとすること。2つ目は、個人の見解を含めた討議を推進するため、誰が発言したかは公開しないというものでした。
討議の内容としては、考察対象期間を20~30年後に定めて情報分析を行い、国家目標、国家ビジョン、国家戦略、情勢分析、国家安全保障戦略、推進施策について討議を行いました。また、国家という広い範囲を検討するため、社会、経済、技術、外交、情報、防衛などの各領域に分けて検討を行いました。

グループメンバーが自衛官と産・学・官の混合チームということで、討議する際の知識のベースや考え方が違います。そのため様々な意見がでて、検討の幅を広げたり、深めたりに役立つのですが、まとめるのは大変でした。話し合いの中でまとまった意見もあれば、投票を行って結論を出したことも。普段とは違う頭を使うこともあり、朝から討議して夕方の17時頃にはもうヘトヘト。最初は長いかと思っていた5日間はあっという間に過ぎて最終日の発表を迎えることになりました。

最終日の発表

各グループに与えられた時間は50分。最初の30分でグループ毎にまとめた国家安全保障戦略や推進施策を発表します。私は、情報領域の国家目標、安全保障戦略とその施策について説明を担当しました(下写真)。発表が終わると、残り20分で他グループとの討議を行います。想定していなかった質疑や意見等で、グループ間で多いに盛り上がりました。
閉会式では、学校長から修了証と記念の集合写真とメダルをいただき、最後に意見交換会(懇親会)をしてセミナーは終了しました。

グループ発表
グループ発表では情報領域を発表しました。産・学・官からの参加者はクールビズ。自衛官は夏制服でした。

駐屯地での生活

セミナー期間中は普段は入れない駐屯地内での生活を送りました。昼食と夕食は自衛隊食堂で同じグループの自衛官と一緒に食事します。宿舎で寝泊まりしますが、朝6時に起床ラッパが鳴り、夜23時には消灯、シャワーは24時間利用できますが、お風呂は入浴時間が決まっています。5日間の規則正しい生活のおかけで快適に過ごせました。宿舎は禁酒なのですが、駐屯地内にお酒が飲める食堂もありました。

木曜の昼食はカレーライス
木曜の昼食はカレーライス。「どの駐屯地もカレーは美味しい」とのこと。

私のグループでは歓迎会と打ち上げということで、駐屯地から出た街中の居酒屋にも行きました。みんなでビールを飲むことで、日中の討議よりさらに盛り上がり、楽しくワイワイと意見交換できました。最終日に他グループの話を聞くと、元気に毎日外出して飲みに行ったつわものグループもあったもよう。
セミナー期間中、昼間は討議して、一緒にご飯を食べてと集団生活をおくるとことで、気心が知れたチームワークや親近感が生まれました。最終日には駐屯地を出るのが名残惜しく寂しく感じました。

旧海軍技術研究所だった建物
旧海軍技術研究所だった建物。ブラタモリでも紹介されたとか

セミナーを通して感じたこと

普段は企業や組織のセキュリティレベルを上げるため、システムの評価や改善の提案をしていますが、対象を国家として考えた経験はありません。そのため国レベルでの戦略や施策の構築という体験が初めてのため刺激を受けました。しかも、外交など全くの素人で知識も足りませんが、私も1人の国民として自分から意見できることも多々あり、さらにメンバーとの協議によって理解が深めることができました。国レベルの施策となると影響範囲も多く、正直5日間のセミナーでは検討や討議の時間が足りません。細部分析できなかった部分を含め、かなりの部分をバッサリ切り捨て成果物を作りました。
物理的な軍事による戦争・紛争と、サイバー空間での戦争・紛争についての違いも改めて認識できました。サイバー空間では、常に攻撃があります。有事と平常、国境、軍人と民間人、戦争か単なるいたずらか、攻撃主体は誰なのか、攻撃目的は何かなど、ほとんどの部分があいまいです。かつ、進化するスピードも速いため法律や制度の整備は追い付かず、セキュリティを守るにしてもかなり不利な状態で課題が山積みです。
安全保障の他の分野でも多くの課題があり、すぐに答えは見つかりません。今後も、情報セキュリティを扱う専門家として、また一国民として考えていきたいと思います。

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