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鹿児島大学は、2020年4月から2025年3月まで5年間にわたる予定で、国立大学としては新しい取り組みとして、大学院での情報セキュリティ講座を設置しています。セキュリティのノウハウを持つラックのスペシャリストがこの講座を担当することで、両者は提携しています。このたび初年度の講座「サイバーセキュリティ特論」を終え、鹿児島大学はその貢献を高く評価。2021年3月、ラックは鹿児島大学から表彰を受けました。
ラック、鹿児島大学大学院からサイバーセキュリティ講座の支援活動について表彰を受ける
両者の関係について、今回鹿児島大学の森副学長とラックの西本社長が対談し、提携の狙いや今後の展望について語りました。サイバーセキュリティ人材の育成について、旧知の間柄でもある2人ならではのお話がたくさん聞こえてきましたので、その様子をお知らせします。
プロフィール
西本 逸郎(にしもと いつろう)
プログラマとして数多くの情報通信技術システムの開発や企画を担当。2000年より、情報通信技術の社会化を支えるため、サイバーセキュリティ分野にて新たな脅威への研究や対策に邁進。2017年4月に代表取締役社長に就任。イベントやセミナーでの講演や新聞・雑誌への寄稿、テレビやラジオなどでコメントなど多数実施。
森 邦彦(もり くにひこ)
1996年 鹿児島大学工学部情報工学科着任。2003年より学術情報基盤センター教授として従事し、2009年より同センター長となる。情報企画の副学長であると同時に、最高情報責任者、最高情報セキュリティ責任者、学術情報処理研究部門教授などを現任。鹿児島県警察本部ではサイバー犯罪テクニカルアドバイザーとなっている。鹿児島県に暮す人たちの生活向上のために、IT(情報技術)活用の啓発に情熱を燃やし、NPO法人鹿児島インファーメーションを設立し、理事長として活躍する。
「魔法使い」にもなれるサイバーセキュリティ人材
──鹿児島大学とラックの協業のきっかけをお聞かせください。
- 森
- 鹿児島大学に着任する前は、NECに在籍していました。その時は、いまほどネットワークが意識されていませんでしたが、次第にそれが新しい文化を醸成するキーテクノロジーであることを実感するようになりました。
7、8年前ですが、西本さんがある省庁の講演で暗号資産の技術についてお話しているのを聞いたことで、インターネットの可能性に改めて気づかされることになりました。早速、鹿児島に来てもらい、講演してもらいました。
- 西本
- ラックは1990年代の一時期に、少し経営的に厳しくなったことがあり、新しいことをやろうということで1995年に開始したのがセキュリティ事業でした。といっても当時はインターネット自体が普及しておらず、あまり需要がありませんでした。
2005年に黒字化するまで実に10年かかりました。ラック創業者の三柴は「国を守る」ことの大切さを強調していました。そうした動きを推進するため、日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)での活動をしており、そこでの講演をきっかけに森さんと出会ったわけです。
- 森
- サイバー空間で国が危機を迎え、それを守る必要があるという世界が来ることなど、当時は予想もしていませんでした。文化をつくるはずのネットワークへの期待が、サイバー攻撃を受けると一瞬にして失望に変わってしまうこともあります。その意味で、セキュリティのリーダー的存在であるラックには注目してきました。
- 西本
- サイバーセキュリティを守るために、私たちは攻撃するための技術についてもスキルを蓄積しています。そして、最近特に感じるのは、攻撃する技術って純粋に面白いなということです。
もちろん悪意の攻撃者から守るために使うという大前提の上ですが、地球の裏側にある会社のコンピューターに入って情報を見てしまうなど、知らない人が見ればまるで魔法使いのようなこともできてしまうからです。
そうしたものを含めた高度なスキルを、技術者でない人に伝え、その人たちがさらに地域の方々、小中学生などに伝えることで、日本のリテラシーを底上げできます。高等教育を提供する大学で実施すれば、より具体的に地域に貢献できます。
- 森
- 同感です。私はサイバー空間の普遍化が起きていると考えています。すなわち、サイバー空間の中で、テクノロジーだけに限らない、例えば恋愛などの概念的な事柄も起きるようになっています。今回のサイバーセキュリティ特論では、セキュリティ情報に加えて、哲学的な内容にも踏み込んでもらったことによって、学生がサイバーセキュリティをより広い概念としてとらえてくれています。
できることなら22、23歳の大学生に戻ってみたい...
- 西本
- ラックには、サイバーセキュリティの知識と心理学の知識を組み合わせることで、誰も追随できないような専門性を獲得した人材がいます。世界トップクラスといわれる情報セキュリティ専門家による会議「CODE BLUE(コ―ドブルー)」で論文を発表するなど、著しく活躍しています。
国がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する中、今後ますますサイバーセキュリティの重要性が高まります。やりがいという意味でも、サイバーセキュリティ人材になることの魅力は大変大きいといえます。
- 森
- ぜひ、鹿児島大学でも、サイバーセキュリティ特論をきっかけに、そうした人材を育てたいと思います。
現代は本当に、ネットワークを通じて実現するいろいろなものが登場しています。例えば、オンライン販売とライブ配信を組み合わせた販売形態であるライブコマースなどは面白いですね。スマホ上で「実演販売」する様子は見た目としては少し間が抜けているようにも思ったのですが、とにかく面白い。
話題の音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」なども、音声チャットと言ってしまえば技術的には新しさはないものの、人の心をつかむ力があります。自分がいま、22、23歳の学生だったらどれだけ楽しいかと本気で思っています(笑)。
- 西本
- 本当にそうですね。どんどん面白いツールが登場し、そこにビジネスチャンスがあると思うと、いま学生だったらと思わず考えてしまいます。高校生から大学生を経て。26、27くらいまででしょうか、その年代には無限のパワーがあります。なので、いまの学生に伝えたい言葉は「1日1日をどうか大切にしなさい」ということです(笑)。
地方の時代が本格到来の予感
- 森
- 今回、少し残念だったのは、新型コロナウイルス感染症の影響で、講座をほぼリモートでしかできなかったことです。それでも、ラックの専門家が直接指導するため、学生の評判は上々でした。
受講対象者は、コンピューターを学ぶ情報系だけでなく、化学系などを含む工学系の学生全体でした。情報系以外の学生がどこまで理解できたかはっきりは分かりませんが、テレビドラマなどでハッカーが簡単に人の情報を取得するような場面の仕組みについて、学べて楽しかったという声が届いています。それでも、やはり新年度は対面の授業を少しずつでも採り入れて行きたいですね。
- 西本
- コロナ禍によって、リモートワークが急速に進みました。リモートの短所はもちろんありますが、リモートならではの長所もあることが分かりました。物理的な移動がないため、いろいろな会議に参加しやすいことなどは大きな長所です。
そこで私は、地方の時代が本格的に到来すると考えています。今、大手銀行などはレガシーシステムを抱えていることもあり、FinTechのようなフットワークの軽い取り組みができなくなっています。ある意味で「先行者不利」の時代が来ているわけです。
そうなると、レガシーから解き放たれ、インターネットにつながっていさえすれば新しいことを始められる現代は、東京など大都市からの脱却の時代と言えるのです。地方には、家賃の安さという大きな武器もあり、ラックにもコロナ禍で地方に移住した社員が多数います。おまけに、鹿児島であれば、魚がおいしい、お酒がおしい、温泉がある...メリットばかりですね。
イノベーションは人と人との化学反応ですので、地方の時代を迎えて鹿児島大学のような総合大学に人が集まれば、そこに化学反応が起きる可能性があります。いまセキュリティ業界の用語といえば、ゼロトラスト、サプライチェーン、テレワークなどすべてカタカナです。ツールもほとんどが海外製であるのが実情です。ぜひ、「鹿児島製」を生み出していきましょう。
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