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ラックの西本逸郎が、気になる注目企業のIT戦略やサイバーセキュリティの取り組みについて、ざっくばらんに"深く広く"伺う対談企画です。今回は、TIS株式会社の代表取締役会長兼社長、桑野 徹さんにご登場いただきます。
TISインテックグループのTISとセキュリティソリューションサービスのパイオニアとして知られるラックが2019年、クラウド&セキュリティ分野での協業を発表しました。その背景と将来の両社の関係についてトップ同士で語り合っていただきました。
プロフィール
西本 逸郎(にしもと いつろう)
プログラマとして数多くの情報通信技術システムの開発や企画を担当。2000年より、情報通信技術の社会化を支えるため、サイバーセキュリティ分野にて新たな脅威への研究や対策に邁進。2017年4月に代表取締役社長に就任。イベントやセミナーでの講演や新聞・雑誌への寄稿、テレビやラジオなどでコメントなど多数実施。
桑野 徹(くわの とおる)
1976年4月株式会社東洋情報システム(現 TIS株式会社)入社。クレジットシステムの開発部長や企画部長などを歴任し、2011年4月に当時のTIS代表取締役社長、2016年7月に現TIS代表取締役に就任。現在は、代表取締役会長兼社長 監査部担当として指揮を執る。
特定の分野に強みを持つ
専門性の高い企業と組んでいくことで生まれてくるバリュー
──2社のパートナーシップが実現することとなった、その経緯からお聞かせください。
西本 弊社では大きく2つの事業を展開しています。1つはシステム開発の受託開発、そして、もう1つは弊社のウリでもあるセキュリティ関連サービスです。前者は、私が大阪にいた、今から30年くらい前からずっとTISさんのお世話になってきました。もちろん、今も良好な関係を続けています。一方のセキュリティですが、TISさんが強みとされている主力領域である金融においても、テクノロジーの変化でオンプレからクラウドにシフト。そこにTISさんは推進的に投資をされてこられました。クラウドはもちろん、新しいテクノロジーやIoTにおけるセキュリティ面で、私たちもお役に立てることがあるのではないかと考えました。
桑野 おっしゃる通りですね。私たちはいま来年度から始まる次期中期経営計画の中で、事業を通じて4つの社会課題の解決を目指し、社会貢献をしていくことを謳っています。
1つは金融包摂、いわゆる融資などの金融サービスにアクセスできない金融弱者の人たちも含め、すべての人が利用できる金融サービスを構築するというもの。
2つめは都市への集中・地方の衰退という課題に対してスマートシティ構想や、あるいは地方のグループ拠点の活用を進めながら解決を図ります。
3つめは、低・脱炭素化。気候変動に起因する災害等による経済損失の増加の一途を辿っていますし、エネルギーの問題は非常に重要な社会課題です。昨年、北海道で電気自動車の実証実験を行いました。
そして4つめが、健康問題ですね。少子高齢化が進んでいく中、我々がビジネスとして何ができるか、そして、我々自身が節制することも重要です。
この4つの事業すべてにかかわる大きな課題がセキュリティの問題です。新しい取り組みを進めるうえで、セキュリティをどう担保していくかという議論になります。
これからの時代、ビジネスは自分たちだけで進めるものではありません。そういった意味で、"何でもできます"という企業ではなく、特定の分野に強みを持つ専門性の高い企業と組んでいくことが重要で、特にこれまで私たちがあまり注力してこなかった領域を補填してもらうことでお客様に対するバリューが高まります。我々も厳しい競争をしていますし、お客様もその業界の中で非常に厳しい競争をされています。
そのお客様に満足して使っていただけるサービスを提供するためには、ラックさんのセキュリティに関する知見は必要不可欠。もはやソフトウェア開発の発注者、受注者という関係ではなくて、本当にイーブンなパートナーとして一緒にやっていきましょうというのが、我々の基本的な考え方です。
世界中のビジネスがオープンになれば
さらにセキュリティの問題が重要視される
──両社がパートナーシップを組むことで、どのようなことが可能になるのでしょうか。
桑野 我々のビジネスのありたい方向の1つに「ストラテジックパートナーシップビジネス」があります。これは既存のお客様の単なるITパートナーではなく、戦略パートナーとしてバリューチェーンの上流からご支援するというものです。今、多くの企業様が、パブリックやプライベートのクラウド、オンプレのサーバー等々、ITインフラが複雑になってきて、それをいかにシームレスな形で最適化していけばよいか、大きな課題感を持っています。
さらにセキュリティをどうしたらよいのか、一般的な事業会社にはそこに詳しい専門家がいらっしゃらない状況です。それに対して私たちが様々なご提案をしたり、指導をしたりするのですが、アプリケーションからインフラまで全て統合した形でサービスを提供しようと思った時にラックさんと一緒にやるべきところはたくさんある。口幅ったい言い方ですが、ラックさんから見ればTISの顧客にタッチできる機会が多く生まれる。そこはラックさんが単独で営業に行かれるよりはTISと一緒に行った方が良いこともあるのではないかと思います。
もう一点は、サービス化という事で従来のSIというか受託開発ビジネスから、サービスオリエンテッドなビジネスにどんどん変えていこうとしています。我々は特に決済という分野でそれを最善の強みにしようとしています。そこにセキュリティ問題が来たときに、我々も企業としてダメージを受けるわけです。それはとても大きなリスクですが、チャレンジしていかなければなりません。我々のプラットフォームがより研磨されていく必要があるということです。そういう部分に関して我々の能力だけでやっていけるかと言うと、そこには課題があります。ですから、サービス化を進めていくTISにとっての重要なパートナー、部門として、ラックさんの能力は非常に代えがたいものです。また、TISのサービスが成長していけば、ラックさんのビジネス分野も拡大していく、お互い共栄共存して成長していくことが可能です。お互いのビジネスが成長していくということは、従業員やお互いのバリューとして良い関係になっていくということです。
西本 非常にありがたいお言葉です。セキュリティ用語に「樽理論」というものがあります。樽は木で作りますよね。高い木もあれば、低い木もあります。その中に水を入れるとどうなるかというと、一番低い木から水が漏れ出します。今、例えばシステム化連携がマルチクラウドでつながっている口座振替など、世の中で起きているセキュリティ上の問題はほぼこのようなものです。色々な樽の木がくっついてしまったわけですね。このいびつな関係を見抜いて、全体としてどうするのかを取り決める必要があります。しかも、求められるスピード感は年々、早まる一方です。
私たちはセキュリティの専門家なので、細かいところばかりを見ていきますし、対策などを偉そうに語っていくのですが、ただ言いっぱなしでは駄目だと思っています。こういう時はどうしたら良いのか、という解決策の提案は弊社だけでは当然できないので、TISさんがおっしゃられているような関係性の構築が理想ですし、急務だと思っています。
桑野 今、金融のみならず、あらゆる業界で大きな変革が起こっています。世の中が変わっていく中で、それを支えるプラットフォームはこれまで以上に重要性が増していると思います。私たちの業界を見渡してみても、例えばアメリカのIBMがインフラ部分を別会社にして、IBM製品以外のものも扱い、お客様に提案できるようなかたちにしました。すなわち、ビジネスがよりオープンになっているということです。我々が、出資した東南アジアのGrabもまた、どちらかというとオープンな企業で、様々な企業に参画してもらいながら、1つのプラットフォームの上でビジネスを生もうとしています。私はこれからどんどん、世界中のビジネスがオープンになっていくと思います。オープンになればなるほど、セキュリティの問題が重要視されるようになります。そういう意味で、今回のパートナーシップは本当に先見の明があると、そのように自負しています。
互いに共通の目標を持って、PDCAをきちんと回していける関係に
──現場で活躍中の両社社員へ寄せる期待の言葉をいただけますでしょうか。
西本 セキュリティ関連でいきますと、弊社のサービスは独自性が高く、自らの手で開発をして、その上で販売をしています。したがって、既存サービスに対するカニバリゼーションは意識するわけですね。しかし、新しいビジネスや取り組みを始めるときには、既存のサービスをぶっ潰すような気持ちでやらないといけないと思っているので、弊社社員には思いっきり腕を振るってほしいと言っています。
社内で大ゲンカをしたっていい。結局、生き残る物は生き残るわけで、そのくらいの気概を持って臨んでほしいですね。
桑野 両者の関係という意味では、徐々にそうなってきているという認識もありますが、案件ベースで「ここのお客様は一緒にやりましょう」といった具体的な話も出てきています。お互いの戦略、例えばTISが策定したビジネスプランの中で、ラックさんの経験的方針と合致する、しないも含めて具体的な意見交換を行いながら、さらに両社の関係を密なものにし、ビジネスプランを共有していけるような関係になっていくことが必要ではないかと思っています。
現場からは、「一部、進んでいる」という声も聞かれますが、私から見ると、まだまだ距離があります。目先のKPIだけでなく、3年後、5年後、TISはこういうことをやっていたい、ラックさんはこういうことをやっていたい、その方向性が一致しています。ここについてはこういう体制を作って一緒に頑張っていきましょうといった具合に、お互いに共通の目標を持って、そのPDCAをきちんと回していけるような関係を作っていくことが重要です。私と西本社長で半年に一回、一年に一回程度はステアリングコミッティなどを実施して、両社の状況を確認して、指摘をし合う、そんな関係になりたいものです。
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